三村仁司氏
豊富な経験を市販シューズに
金メダルシューズを作り続けてきた三村仁司氏とアディダスの提携が発表されたのは、丁度2年前の2010年1月でした。それまでメダリストを含む日本のトップアスリートのオーダーシューズ作り一筋にきた「匠」が、アディダスブランドの一般市販シューズを共同開発するという発表に、ランナーの期待は大きく膨らみました。その時の話では、三村モデルの発売は2011年の秋とのことでしたので、2010年4月に遠くドイツにあるアディダスの開発研究所まで三村氏に同行した小生としては、昨秋からいまかいまかという気持ちで待ちこがれていました。そしてようやく三村モデル「adizero TAKUMI」が1月30日(月)に発売開始となりました。
シューズ工房も期間限定オープン
発売開始日の1月30日には、三村氏のシューズ作りの技と想いをどのランナーにも実際に目で見て確かめてほしいという意図から生まれたユニークな企画、期間限定オープンの三村仁司氏のシューズ工房「M.Lab東京」で記者発表が行われました。三村氏のシューズ工房「M.Lab(ミムラボ)」は兵庫県高砂市にあるのですが、1月31日(火)から2月13日(月)までの2週間期間限定で東京(原宿)に「M.Lab東京」を設け、シューズ作りの工程や三村氏本人による「アライメント(足の傾き)」計測光景を実施に見てもらおうという試み。もちろん「adizero TAKUMI」の「SEN」「REN」も用意され、試履ができます。
「adizero TAKUMI」の開発秘話
三村氏を挟んでデイブ・トーマス氏(右)と萩尾孝平氏
まず、アディダスジャパンのデイブ・トーマス氏が近年アディダスシューズのシェアが拡大していることを紹介(陸上世界選手権では50%)、巨匠三村氏の多くの経験を生かして多くの日本人ランナーを速くしたいと挨拶。
続いて、日本人ランナー向けに開発されながらいまや世界中のランナーに幅広く愛用されるようになった「adizero」開発の担当者アディダスジャパンの萩尾孝平氏による開発秘話が披露されました。
「adizero TAKUMI」開発にこだわったことは?
ヒール部の比較。「REN」(左)と「SEN」
萩尾「日本人ランナーの特徴はピッチとリズムなので、小気味よく刻むためのそれに合った反発性を大事にした」
三村「底は大事。そしてアッパーにこだわって素材を改良した」
納得できるシューズになったか?
萩尾「一番に挙げられるのは、単に反発性だけでなく安定性との両立をユニークなソールユニットで実現できたこと」
三村「素材改良で、最終的にフィット性がよくなった」
大切にしたことは?
萩尾「adizeroの持つDNAを残しながら三村さんらしさをいかに落とし込めるかだった。三村さんの要望に応えるのは難しかった。素材に対する三村さんの要求は非常に高く、何回も作り直した。アッパー素材だけで15回くらい作り直した。線維メーカーには苦労をかけたし、製造の現場からも悲鳴が上がった。しかし、妥協しない思いで取り組んだ。ソールは市販モデルなので、耐久性を保った上にグリップ性を求めた」
三村「感性も大事にした。手触りなど」
アッパー素材で一番大事にしたところは?
三村「通気性と軽量性」
萩尾「このメッシュ素材は形状記憶素材のように形が持続する。それがフィット感になっている」
三村「こうしてほしいという要望をいくつも言って作ってもらった。普通はニューモデルは1年もあればできるが、やり直しやり直しで2年かかった。いいシューズになったと思う」
萩尾「たった一足のシューズだけど、シューズ一足で人生が変わることもある。ランナーを安心させる一足一足を大切に作っていきたい」
三村「選手はいつもシューズに頼る。これからもいいシューズを提供していきたい」
形状記憶性能で足を均等に包み込むフィット感
布が形状を保ったまま立ち続けた
ソールはいくつものパーツから成っていますが、そのパーツごとに求められる機能に合致した形状のテストと素材開発とを何度も試行しながら開発されたとのこと。ソール部は特にランナーの感性に応えるものでなければならず、エリートランナーの試履きを繰り返しながら改良を重ねたとのことです。素材の開発もたいへんですが、その型作りにも膨大な時間、費用がかかったであろうことは疑いありません。