キーワードは「お金」と「孤立」
おひとりさま老後は「孤立」への対策も欠かせない
「お金」は生きている限り必要なもの。だから、誰もが老後を見据えてコツコツと貯めているのです。では「孤立」に対しては? 現役時代は「孤立」なんて関係ない、「何それ?」という人が大多数でしょう。でも70歳、80歳の自分を想像すると……。
「年をとる」ということは、「今までできていたことが1つずつできなくなる」「身体のどこかに不具合を感じるようになる」ということです。それがあるレベルを超えると、少なからず誰かの助け――見守りや介助――が必要になります。その「誰か」がいない、頼めない……「孤立」。それは恐怖に近い感覚かもしれません。だからこそ、おひとりさまはお金と時間をかけて「孤立しない」ための準備をしなければならないのです。
では統計を基に、おひとりさまが必要とする老後資金と、「孤立」への対応策を考えていきましょう。
「お金」への対応策:生活資金の目安は682万円
総務省「家計調査報告(家計収支編)―令和2年(2020年)単身世帯詳細結果表―」によると、 65歳以上の高齢単身無職世帯の家計収支(月額)は次の通りです。- 実収入:13万6964円(うち社会保障給付12万1942円)
- 消費支出:13万3146円
- 非消費支出(直接税と社会保険税):1万1541円
- ⇒1カ月あたり7723円の不足
不足分×12カ月×(90歳-65歳)=7723円×12カ月×25年=231万6900円
社会保障給付=公的年金等とすると、毎月の公的年金で不足する金額は2万2745円。65歳~90歳の生活資金は約682万円になります。
不足分×12カ月×(90歳-65歳)=2万2745円×12カ月×25年=682万3500円
男女別では、女性のほうが老後資金が多い
では、男女別にもう少し詳しく見ていきましょう。同調査によると、65歳以上の単身世帯の男女別消費支出はほぼ同額です(非消費支出を含まず)。男性:年間164万3076円(月額13万6923円)
女性:年間167万3004円(月額13万9417円)
これに非消費支出(直接税と社会保障税)の13万8492円(月額1万1541円)を加えた年間支出は、男性が178万1568円、女性は181万1496円。年間の生活費の目安は180万円ということになります。
一方、収入の要である公的年金受給額は、「令和元年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」(厚生労働省)によると、65歳以上の厚生年金保険(第1号)(※)老齢年金受給権者の年金額は次の通りです。
- 男性205万5660円
- 女性130万5756円
平成27年10月に旧共済年金が厚生年金に統合された際、被保険者の分類がなされ、従前の厚生年金被保険者の類型に属する者が第1号厚生年金被保険者とされ、旧共済年金の加入者が第2号厚生年金被保険者(国家公務員共済)、第3号厚生年金被保険者(地方公務員共済)及び第4号厚生年金被保険者(私立学校共済)とされた(企業年金連合会)用語集より)。
老後25年間(65歳~90歳)に必要とする生活資金(計算式=(年間支出-年間収入)×25年)を計算すると、男性は約685万円の黒字(=生活資金は年金で賄える)です。一方、女性は約1264万円を準備する必要があります。
男性:(178万1568円-205万5660円)×25年=0円(約685万円の黒字)
女性:(181万1496円-130万5756円)×25年=1264万3500円
女性がこれほど多額の老後資金を準備する必要があるのは、公的年金額が少ないからです。男女の賃金格差は年金格差となり老後にも大きく影を落とし続けます。
算出したのは、一般に現役時代の70~80%程度といわれている「基本的生活費」です。安心で楽しい老後を過ごすためには、医療・介護費用やレジャー費用、交際費などの予備資金を上乗せする必要があります。特に医療・介護費用は、2人以上の世帯に比べ、どうしても他者に頼らざるを得ません。その分だけお金を必要としますので、少し多めに見積もることをお勧めします。
70歳まで現役!老後資金の準備に余裕?
現役期間が65歳まで延びたことで、無年金の期間が短くなった
これまでは60歳でリタイアした後の数年間、つまり公的年金が給付開始される年齢までの空白期間の生活資金を準備する必要がありました。しかしこの改正により現役期間が延び、その分老後期間(=リタイア後の期間)が短くなります。その結果、準備すべき老後の生活資金はだいぶ少なくなりました。
さらに2021年4月、70歳までの就業機会の確保を企業の努力義務とする「高年齢者雇用安定法」の改正案が施行されました。これにより「70歳現役社会」が現実のものとなり、老後資金準備の圧力から解放される人がさらに増えそうです。
50歳代の貯蓄額1000万円以上は34%
前出の計算で、老後の基本的生活費として少なくとも女性は約1265万円が必要となりました。では、50歳代のおひとりさまの金融資産保有額を見ていきましょう。金融広報中央委員会が令和2年に行った「家計の金融行動に関する世論調査(単身世帯調査)」によると、金融資産を保有する世帯の平均値は1044万円(前年1059万円)、中央値は300万円(同300万円)です。
50歳代に限れば、平均値は1601万円(前回1496万円)、中央値(※)は622万円(同420万円)、貯蓄額が500万円~1000万円未満は18.4%(同11.6%)、1000万円以上は34.4%(同35.5%)です。
【50歳代の金融資産保有額(金融資産保有世帯)】
100万円未満:17.6%(21.4%)
100万円以上500万円未満:24.5%(27.8%)
500万円以上1000万円未満:18.4%(11.6%)
1000万円以上2000万円未満:14.2%(13.7%)
2000万円以上3000万円未満:7.3%(8.1%)
3000万円以上:12.9%(13.7%)
無回答:5.2%(3.6%)
( )内は前年(令和元年)の数値
*公表データをそのまま転載した。合計は100.1%となっている。
ちなみに60歳代では、1000万円以上保有が45.5%(前回42.6%)、うち3000万円以上保有は19.5%(同19.1%)で、1000万円以上保有の43%を占めています。中央値(※)は860万円(同845万円)です。
(※)中央値とは、調査対象世帯を保有額の少ない順(あるいは多い順)に並べたとき、中位(真ん中)に位置する世帯の金融資産保有額のこと(金融広報中央委員会)。
なお、50歳代・60歳代で金融資産を持っていない世帯は、それぞれ41.0%、29.4%に上ります。
「孤立」への対応策:信頼のネットワークを築いておく
ペットもおひとりさま老後を支える大切な仲間
おひとりさまにとって「どこ(誰のそば)に住む」の選択は、ある意味「終の棲家」の選択ともいえるでしょう。できれば現役時代に「どこ(誰のそば)に住む」を検討し、リタイア後できるだけ速やかに実行することが、「お金・体力・気力・適応力」の面から望ましいと思います。
ネットワークの相手は、 気の合う兄弟姉妹やその家族、気の合う仲間たち、近隣の人たち、などが考えられます。
ネットワークづくりはケア施設も含めて検討を
近隣に「ケアハウス」が建設されることを知った姉が、遠く離れて住む60歳代のおひとりさまの妹に連絡。妹は「入院や要介護でのサポートの不安から開放されるし、入居費用も今の家賃程度なので老後資金への影響はそれほどない。今の年齢なら、新天地で友人も作れるだろうし、本当にラッキー!」と、即入居の手続きを取った姉妹がいます。ケアハウス以外にもシルバーハウジングやグループリビング、コーポラティブハウス、サービス付き高齢者向け住宅、有料老人ホーム、まだわずかですが仕事付高齢者向け住宅(経済産業省「健康寿命延伸産業創出推進事業」)、最近増えてきた大手住宅メーカーのシニア向け賃貸住宅などなど、ネットワークを組む人と望ましい住まい方やサポートの方法などについて、費用を含めてじっくり話し合いましょう。
もちろん、ネットワークを作るだけでは不十分です。それをサポートする公的介護保険制度、地方自治体や社会福祉協議会の高齢者福祉政策等への知識も必要です。さらに、高齢者対応の最前線である地域包括支援センターを時々訪れ、気兼ねなく相談したり話し合える関係を構築しておくとより安心です。
自立したおひとりさま老後には断捨離が欠かせない
「子どもに介護の負担をかけたくない」「時間や住居面から子どもに介護は期待できない」など、子どもに老後の支援を期待しない(できない)人が増えています。誰もがいつかはおひとりさまになる時代、ということなのでしょう。これからは、自前のネットワークを活用しながら、できるだけ長く自立することが求められます。義理や見栄に使っているお金を断捨離して、サポートし合い本当に繋がっていたい人たちとの絆を強めることに使いましょう。それが、自由で平和で豊かな自立したおひとりさまの老後に繋がる、と思います。
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