メンズの靴(紳士靴)のヒールの高さって一体どの部分?
ヒールの高さの正しい測り方! 靴の最後端部で、「地面に垂直に」測ります。例えばこの靴のヒール高さは約3cm。このように斜めにカットされているものは、「縦方向の長さ」がそのまま「高さ」にはならないので注意!
今回は、靴の印象を大きく変化させる重要な要素でもある、ヒールの「高さ」について考えてみたいと思います。まずは基本中の基本「どの部分を、どう測るか?」ですが、紳士靴の場合は上の写真にある通り、「靴の最後端部において、アッパーの最下端からトップリフトの接地面までの距離を、地面に垂直に測った長さ」がヒールの高さになると考えていただければ結構です。ヒール最後端部そのものの上下方向の長さを測ってしまうケースが多いのですが、これだと斜めにカットされたヒールの場合、「高さ」にはならないのでご注意あれ!
実はヒールの高さの測定方法には、もう一つ。
「ヒールの最前端部において、アッパーの最下端からトップリフトの接地面までの距離を、地面に垂直に測った長さ」なるものが存在します。実際、アメリカなどの一部の外国では、この長さをヒールの高さと定義しているようです。ただ、婦人靴とは異なりヒールの前端と後端とでの傾斜、すなわち高さの差が殆ど起こらない紳士靴の場合、こちらは気にしなくても大丈夫でしょう。
メンズの靴(紳士靴)のヒールの高さは「ある数値」がキーポイント
突然ですが皆さん、レディスのファション雑誌って読まれたことありますか? 女性の学生も教える職業柄、小生は書店等で非常に恥ずかしい思いをしながらパラパラめくることが間々あるのですが、靴の特集が載っていると、その内容の差にいつも驚かされます。写真とか文章の言葉づかいもそうですが、一番「違い」を痛感するのは各商品の紹介の最後に、紳士靴の紹介文では全くお目に掛からないあるフレーズが、必ず記載されている点です。それはズバリ、「ヒール高さX.Xcm」の一言。つまり多くの女性にとっては、この数値が靴を選ぶ際の大きな基準になっているのです。対照的に男性では、よほどの靴好きの方以外はこの値を気にされる方など、殆どいらっしゃらないのでは? 理由は簡単で、今日の街履き用の紳士靴の場合、ヒールの高さは婦人靴に比べ振れ幅が圧倒的に少なく、ある数値に収斂する傾向が極めて高いからです。
具体的には丁度1インチ(約2.54cm)を軸に、7/8インチ(約2.22cm)から1 1/4インチ(約3.18cm)に見事に纏まる傾向にあります。その差、僅か1cm弱! 要はヒールリフトに用いる牛革やレザーボードを1枚省くか、1枚積み増すか程度の差なのです。例えば、スリッポンの類はやや低めのものが多いとか、1970年代のものはやや高いものが多いとか、靴のスタイルやその時々の流行(合わせて穿くボトムズとの相性もあるのでしょう)が影響を与えるものの、それでも19世紀後半以降の紳士靴のヒールの高さは、この振れ幅にほぼ収まります。
確かにこの1インチ前後のヒールと言うのは、装飾面での魅力には乏しいものの「体重の分散」「姿勢の安定」と言う機能面では必要にして十分であり、極めて納得のゆくものです。また、この高さでこの程度の振れ幅であれば履き心地の差は意識出来なくても当然! 裏を返して申し上げれば、高さの差がこれ以上発生すると、かかとからつま先への傾斜の角度=荷重のバランスが大きく変化するため、履き心地のみならず靴の設計そのものにも影響が出て来ます。その辺りを理解できている修理屋さんだと、ヒールの高さのみを5mm以上変化させるカスタマイズは、靴の機能低下を招く恐れもあるのでお断りするケースが多いようです。 それにしても、フラットシューズから10cm以上あるハイヒールまで、ヒールの高さのバリエーションが多岐に渡る婦人靴に比べると、現代の紳士靴のこの単調さはあまりにも対照的。女性がそれらを「履き分ける能力」って凄いよなぁ…… と改めて思う今日この頃です。
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