三ツ星レストランのような極上の脚本:ストーリーをイタリア料理風にご紹介
邦題が『あしたのパスタはアルデンテ』というくらいですから、もちろんこの映画には、みんなでパスタを食べるシーンが登場します。いっしょに料理を楽しむということが人と人との絆や愛を深めるうえでとても大切、という監督さんのメッセージが伝わってくる気がします。そこで、この作品のストーリーを、フルコースのイタリア料理になぞらえてご紹介してみたいと思います。■アンティパスト(前菜)
イタリア半島の南端に位置する海辺の街・レッツェでパスタ工場を営むカントーネ家。社長である父親は、二人の息子たちに工場の経営を任せるため、引き継ぎの式典としての晩餐会を計画中。その前夜、工場長をしている兄のアントニオに、弟のトンマーゾは「僕は工場なんて要らないから、ローマで暮らしたい。ゆくゆくは作家になりたい。そして、これは大したことじゃないけど、僕はゲイなんだ」と告げます。「晩餐の席で家族に話すつもりさ」とも。「本当にそんなことをするのか? 父が何と言うか」と言う兄に、弟は「きっと家を追い出されるだろうね。あの父が許すなんて考えられない」と答えます。
これはゲイが主人公の映画なんだな、果たして父親はトンマーゾを受け容れてくれるのだろうか…と思わせる、ちょっとスパイシーな前振りです。
■メインディッシュ
晩餐会の日。弟のトンマーゾが口を開く前に、兄がまさかのカミングアウト。父はものすごい剣幕で怒り狂い、アントニオを勘当します。トンマーゾももちろん驚き、そして「やられた」と思うのです。が、心臓発作で倒れた父に涙目で後を継ぐよう懇願され、トンマーゾは家族にゲイだと言う機会を逸したまま、そしてローマに彼氏を残したまま、渋々田舎町で工場経営をやらされるはめに…
実は兄弟ともゲイで、兄が「一抜け」した格好。観客の予想を裏切るような驚きの展開になりました。ここからが本筋です。全く興味のない工場経営に、そして(とても濃い面々ばかりな)家族のしがらみにどっぷり浸かっていくトンマーゾですが、さらに彼をガックリさせるような出来事が次々に押し寄せます。特に、ローマに住むトンマーゾの彼氏やゲイ友達が家に突然やって来たときの大騒動が最高に笑えます。コメディとしてはここがいちばんオイシイところ。パスタで言えば鷹の爪がたっぷり入ったペペロンチーノかアラビアータといった味わいでしょうか。
■サイドディッシュ
映画の冒頭から、古き良き時代のイタリア映画のような、とても美しい映像が流れます。この一連のシーケンスは、サイドストーリーとして、トンマーゾが主役の物語にときどき挿入されます。メインを引き立たせるだけの「つけあわせ」のように見えますが、この『あしたのパスタはアルデンテ』というコース料理には欠かせない、大事な食材です。
■デザート
笑いあり涙ありセクシー・シーンありのフルコースだったこの映画ですが、最後の数分は、このうえなくスイート(ドルチェ)で芳醇な…あまりの素敵さに涙が出るほどでした。こんな拍手したくなるようなラストシーンを味わえたのは、本当にひさしぶりです。大満足な2時間でした。