複合ソールとは?その構造と魅力を解説
以前の記事では、アメリカの靴に見られる対称的な2種類のソールを採り上げました。どちらも今日ではそれほど多く見られる訳ではありませんが、忘れた頃にポコッとファッショントレンドに採り入れられてしまうところを見ると、存在感が十分にある底材であるのは間違いないのでしょう。
複合ソールとは?紳士靴として実用性が高いソールの魅力
さて今回は、以前の記事でリペアショップのケーニッヒ デア マイスターをご紹介した際に、「新品の靴ではごく一部しか存在しない」と書いた、前半分はラバー・後半分にはレザーを用いたアウトソールを、もう少し詳しく見てまいりましょう。世間では「コンビネーションソール」とか「ハイブリッドソール」等とも呼ばれ、単なるラバーソールに比べスッキリとした印象に仕上げられ、お天気を気にせず履けかつ耐久性にも富んでいるので、もっと多くの靴メーカーが採用してもいいように思うのですが…… なぜ「ごく一部しか存在しない」のかな? 疑問に思われる読者もいらっしゃるでしょう。その理由は、「作る・取り付けるのに意外と手間が掛かる」の一言に尽きます。2つの素材を用いると言うことは、単純に部材の種類が多くなるのを意味しますし、底付けに際してはレザー・ラバー双方に対応可能な接着剤や中物(クッション材)を、通常の製品とは別に開発・調達する必要が出てくる可能性もあるからです。また、この種のアウトソールを新品で製造する際には、履き心地の違和感を抑えるべくラバー部とレザー部との段差、特に両者の境界部での段差を無くす工夫も求められます。これはレザーのみ、若しくはラバーのみの底材で対応した際には全く気にする必要のない事柄であり、すなわち製造に際してのチェックポイントを追加してしまうことにもなるからです。
と言うことで、靴メーカーにとっては採用しただけのコスト的成果が実は得られ難いこの種のアウトソールですが、ユーザーニーズを重視し積極的に採用している会社が、代表的なところで2社あります。そのどちらのソールも、「量産性と実用性」を兼ね備えた非常にユニークな構造になっています!
複合ソールの構造的特徴とは……代表的な2社の靴で解説
「前半分ラバー・後半分レザーの複合ソール」の採用に熱心な靴メーカーと言えば、まずはスペインのヤンコ(YANKO)を挙げない訳にはまいりません。この靴メーカーは1990年代中盤に我が国に紹介され始めましたが、同社で「ヨークソール」と呼ばれるこの仕様の底材は、当時から今日までずっと定番であり続けてくれています。この種のアウトソールの有用性をここの靴で知った読者の方も多いのでは?ヤンコのヨークソールは、ラバーソールの土踏まず部より後を、レザーソールで言わば「下支えした」形状となっているのが大きな特徴です。より具体的には、予め二段階の厚みを有して作られたラバーソールの薄い側=土踏まず部より後側に、レザーソールを組み込んで厚みを均一化させることで、見た目の違和感を皆無にしているのです。技アリのこの意匠で複合ソールの代名詞的存在となったヤンコですが、それまでの日本の代理店が2010年の春に倒産してしまった関係で、以前に比べ入手が難しくなっているのが誠に残念! とは言え、正規購入のルートがこちらのお店を通じて再び確保されていますので、ファンだった方はどうかあきらめないでいただきたい!
スコッチグレインのグリッパーソールです。こちらはラバー部とレザー部の境界を共に斜めに漉き、双方の段差を無くした上でアウトソールとして一体化させています。両者の重なりが狭いこともあり、履き心地は非常に軽快!
実はこれ、ラバー部とレザー部の境界領域を共に斜めに漉いて、双方の段差を無くした上で貼り合わせ一体化させていて、すなわちヤンコでは土踏まず部より後ろ全体で広く請け負っていた両者の接合部を、境界領域のみに凝縮させたことがソフトな履き心地に繋がっている訳です。このメーカーの靴はグッドイヤー・ウェルテッド製法ですのでアウトソールは最終的には出し縫いで装着されるものの、これは接合部に用いる接着剤の進化が無ければ製造不可能だった画期的な技術! 当初はレザーソール用の革を無駄なく用いたいが為に採用した意匠でしたが、スコッチグレインではこれを更に応用し、「後半分」をレザーではなく前半分とは別の合成素材を用いた「グリッパーテクノソール」も登場させていて、こちらも非常に好評を得ています。
国の内外の違いこそあれ、ヤンコもスコッチグレインも、伝統的なスタイルの中にトレンドも適度に入れてくれる点、そして価格の割に品質が優れる点で共通の印象を持つ靴メーカーです。今回ご紹介したアウトソールも、技術的なアプローチこそ微妙に異なるものの、「頑張るビジネスマンが使える予算の範囲内で、紳士靴にどんな機能を求めているのか?」なる切実な問いに対する、どちらも素晴らしい回答と申せるのではないでしょうか。
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