「松葉最中」要は自家製のこし餡
「松葉最中」は、小豆のこし餡入りの小ぶりな最中。初代の趣味、歌澤(三味線音楽の種目の1つ)にちなみ三味線の胴の形を模して、松葉の紋を付けたもの。手に取り2つに割ると、皮も餡も思いの外柔らかです。笹間さんいわく「柔らか過ぎて、おそらく職人でなければ餡を詰められない」ほど。
柔らかいとはいえ、湿っているわけではなく、ほろりとした食感。口に含むと皮の香ばしさが鼻から抜けます。皮と餡とは一体感があり、まったりととろけるよう。風味が良く滑らかなこし餡は、濃厚でありながら、さらり。食べた後に清々しさすら感じます。「水飴(餡の保水のため、最中の餡の多くに加えられる)の量を抑えているためでしょう」とのことですが、加えて餡の炊き方も大いに関係しているようです。
同店では、旨味と香りを残すため、豆を煮る際は、あえて渋切りを一切せず、皮を除き、漉した後に初めて水にさらします。こし餡作りに使う純度の高い砂糖、白双糖の澄んだ甘さが、餡の持ち味を引き出します。
こし餡作りは、一般的に粒餡作りより手間暇がかかります。豆が煮えたら皮を除き、漉した豆汁「ご」を水にさらして渋を抜き、絞り、まずは「生餡」を作ります。生餡に砂糖を加えて煉り上げ、ようやくこし餡が完成します。工程が多い分設備も要るため、粒餡は自家製でもこし餡は仕入れる、という和菓子店も少なくありません。これぞ、というこし餡の最中になかなか出合えない理由は、ここにあるのかもしれません。
さて、話が脱線しましたが、同店では、最中種に餡を詰めるのは前夜とのこと。餡を詰めてすぐが美味しいのではと思いきや、同店の最中の場合、詰めたばかりのものは皮が水分を吸い、しっとりし過ぎているのだそうです。ちょっと不思議ですが5~6時間経つと餡と皮とが落ち着き、皮に香ばしさが戻るのだとか。
最中の皮は、ほとんどの場合「種屋」と呼ばれる専門業者が作ります。和菓子店は、イメージどおりの最中を作るべく、種屋さんに最中種を注文するわけですが、これにどんな餡を合わせてどう仕上げるか。ユニークな餡を使ったり、餡を別添えにし、仕上げは食べ手に委ねたり、はたまた「松葉最中」のように、真似のできない職人技で餡を詰め、いい塩梅に仕上げたり。シンプルなだけに、センスが物を言うお菓子です。
<店データ>
■「御菓子処 さゝま」
所在地:東京都千代田区神田神保町1-23
電話番号:03-3294-0978
営業時間: 9:30~18:00
定休日:日曜・祝日(夏季休暇;8月1日~10日、お正月休暇;1月1日~4日※いずれも前後する可能性あり)
地図:御菓子処 さゝま
アクセス:JR線・東京メトロ丸ノ内線御茶ノ水駅、東京メトロ千代田線新御茶ノ水駅、都営地下鉄新宿線小川町駅から徒歩約10分、都営地下鉄三田線神保町駅から徒歩5分、東京メトロ東西線竹橋駅から徒歩8分