テーマ2:「死」を思う
大切な誰か、そして私たち自身にも避けられない「死」の瞬間。言葉にすると重すぎて、そして言葉にすると空疎になるこの「死」のテーマを、絵本は、最もシンプルな言葉と印象的なタッチの絵で、私たちの心に問いかけてくれます。2冊のすばらしい絵本をご紹介します。『さよならをいえるまで』
(マーガレット・ワイルド 文、フレヤ・ブラックウッド 絵、石崎洋司 訳、岩崎書店)
死を受け入れられなかった少年が「さよなら」と言えたわけとは?
愛犬の死を信じられなかった男の子は、そのお別れを、どう受け入れるでしょうか? そして、最後に、心からの「さよなら」を告げたとき、彼の目の中にはどんな愛犬の姿が浮かんでいたのでしょう?
誰にでも、大切な者との別れは、やってきます。しかし、その事実を受け入れて、心からのお別れを言えるためには、自分なりの静かな「お別れの時間」を持つことが必要になるのでしょう。その「お別れの時間」を十分に過ごすことで、亡くなった大切な者への思いに区切りをつけ、この物語の男の子のように、新たに人生を歩んでいけるようになるのだと思います。
『1000の風、1000のチェロ』
(いせ ひでこ 著、偕成社)
大震災で亡くなった愛する者をなぐさめる1000人のチェロ
参加を決めた2人は、練習を重ねていくうちに、お互いの奏でる音色が少しずつ変わっていくのに気づきます。そして、コンサート会場では、国内外から集まってきた1,000人以上ものチェリストが、一つの指揮棒に合わせて一斉に楽曲を奏でます。1,000の心が一つになった瞬間、少年と少女の心には何が浮かんだのか……。
奏でる音楽の音色には、言葉に出せない想いが刻まれます。愛する者を亡くした悲しみは、軽々しく口には出したくないもの。でも、同じ思いを抱く人たちと心を一つにして楽曲を奏でられたとき、言葉を超えた大きななぐさめと、癒しを経験することができるのではないでしょうか?
ここで紹介した物語のように、「生」と「死」の意味、誰かとつながり分かち合う温かさを、絵本は短い言葉と柔らかな色彩で伝えてくれます。絵本のメッセージに込められる深い意味は、大人だからこそ理解できるものでもあります。
「忙しくて最近本も読めない」とため息をつく人も、寝る前に1冊の絵本を開く時間くらいはあるのではないでしょうか? 絵本は、忙しい中で見失いがちになる「ありのままの自分」が心の底で願い、求める思いに気づかせてくれるきっかけになります。ぜひ、本屋さんでお気に入りの一冊を見つけてみてください。