男性の場合
サラリーマンの男性が深夜の電車内でうなだれている。酒臭い息とだらしない様子から、すっかり眠り込んでいることがわかる。周囲の乗客も皆、目を閉じてじっとしている。かなり疲れた様子。男性の下車駅は郊外の終点である。月末の週末で翌日は休みのため、つい普段より飲み過ぎてしまったようだ。網棚にあった夕刊紙を手にしてざっと読んでいるうちに猛烈な眠気に襲われ、首をガックリとうなだれて眠り込んでしまった。夕刊紙は知らぬ間に床に落ちている。
仮睡者狙い
どんどん減っていく乗客。ほとんどの人が座ったまま動かないのに、車両をゆっくりと乗客を見回しながら歩く男がいる。たまに、網棚の上の雑誌などに手を出すが、それが目的ではなさそうだ。さりげなく、しかし狙いを定めたように、寝入っているサラリーマンの隣りに何気なく座る。あたりを見回すが、誰も視線を上げない。男は男性の靴に自分の靴先を当てる。コツコツとノックするように当ててみるが、何の反応もない。熟睡している。首をかしげるように男性の胸元をのぞき込む。札入れが男性の内ポケットから少しのぞいている。今度は肩を少しこづいてみる。やはり反応がない。じきに終着駅に到着する。そろそろ車内のアナウンスが始まる頃だ。
男は男性の内ポケットから慣れた手つきでアッという間に財布を抜き取る。一瞬の動作であり、誰も見ていない。何気ない風を装いながら男は自分のブルゾンの内ポケットに財布をしまい、さりげなく歩いて、計算していたかのようにやがて着いた終着駅でさっさと降りる。
時、すでに遅し
サラリーマンの男性は車内のアナウンスで下車駅に到着したことを知る。大きなのびをしてから、バッグを持ち直して立ち上がり、落とした夕刊紙をガサガサと踏み散らしながら下車する。タクシー乗り場で、タバコを吸おうとしてライターを取り出そうとあちこちのポケットを探す。そして、初めて内ポケットから財布がなくなっていることに気がつく。
血の気が引く思いで一生懸命思い出してみる。
(電車に乗ったときは、確かに財布はあった。とすると、車内で眠っている間に、抜き取られたのだ!)
青ざめて駅前の交番に駆け込むが、もちろん、財布が戻ってくることは考えられない。
※これらのケースは実際の被害体験を元に構成しています。
→統計資料より/被害に遭わないために