若い女性の場合その2

車両端の連結部のそばの3人掛けのシートには、一人で座っている若い女性がバッグを抱えて顔を埋めるように寝込んでいる。栗色の髪がばらりと流れて、電車の揺れと同時にときおり揺れている。完全に眠っているようだ。

車内はどんどんと空いてきて、終点に着くまでに混む予定はない。女性の座っているのは進行方向に向かって後方の連結部に近いシートだ。片側が車両の壁なのですっかり安心して、寝込んでいる。短めのスカートが膝をあらわにしている。

と、次の車両で男が車内を移動してくる。乗客の様子を見回しながら、何かを探すようにゆっくりと歩いている。長いコートのポケットに手を入れて体の前で合わせるようにしている。誰ももちろん彼のことは気にはしない。

連結部のドアをゆっくりと開けるとすぐに女性が座っているのがわかる。ノブを持ったままていねいに閉める。それでもガタンと大きな音がするが、誰も顔を上げない。女性をチラリと見て、向かい側の誰も座っていないシートに座る。座ったまま上体を伸ばして車内を見渡すが、誰も動かないし、誰も見ていない。

スッと立ち上がり、女性の正面に立つ。女性はまったく起きる気配がない。男は靴先で女の靴をちょっとこづいてみる。反応がない。男は車内をチラリと見渡し、誰もこちらを見ていないことを確認する。すると男は自分のコートの一方の前身頃をつかんだかと思うと、女性を覆い隠すように広げて、斜めかげんに立つ。車内の他の人からは女性の姿は見えなくなった。

灯りが閉ざされて女性の回りは暗くなった。それでも女性は気がつかない。男はコートを広げたまま、女性を見下ろして、もう一方の手を自分のズボンに伸ばす……。

目が覚めて…

終点のターミナル駅に着いたところで、ようやく女性は目を覚ます。緩慢な動きで重そうに起きあがろうとしてギクッとなる。

(なに、これ?)

抱えたバッグに付着しているものがある。

(!! やだ、信じらんない! ウソでしょう?)

と、一気に醒めた頭で、愕然とする。

何も見ていない。何も記憶にない。何もわからない。しかし、そこにあるものが確かな事実を物語っている。

(誰かが、ヘンなことをしたんだわ。誰? 私、全然、わからなかった! イヤだ。こんなことって。いったい誰が?)

と、車内を見回しても、シートで眠ったままの乗客が数人いるだけで、ほとんどの客が降りている。アナウンスが「この電車は折り返し、○○行きの最終電車になります」と知らせている。

電車を降りて、ホームにある水飲み場へ急ぐ。蛇口から水を勢いよく出しながら、バッグに付着したものを洗い流す。

(うぅ、イヤだ。気持ち悪い)

吐き気を催しそうになりながら、水で十分に流したあとティッシュペーパーで拭く。しかし、どんな状況だったのか? 女性にはまったくわからない。

(眠ってしまったから、こんな目に遭ったんだ。悔しい! でも、まったくわからなかった。熟睡していたんだ。ホントに信じられない! どういうことよ、いったい!!)

と、怒りはおさまらないが、誰に訴えることもできない。

(あー、もう。信じらんない。今度、ヘンなことをしそうなヤツがいたら、とっつかまえてやる!)

怒りで眠気は吹き飛び、悔しさで叫びたくなる気持ちを押さえながら帰路につく…。


→男性の場合/仮睡者狙い
→→統計資料より/被害に遭わないために