ヒンドゥー教の聖地パシュパティナート
シヴァの化身パシュパティを祀ったパシュパティナート。シヴァを示す男性器リンガと女性器ヨーニの結合像が多数設置されている
火葬場アエル・ガート。人は灰に煙になって自然へと返る
「ガンガーに遺灰を流された者は解脱できる」という伝説に従ってインドの人々がベナレス(バラナシ)を目指すように、ネパールの熱心な信者たちはこの地に集い、沐浴し、死に、焼かれている。この街には、死を待つ人専用のホスピスさえ存在するのだ。
パシュパティナート寺院自体はヒンドゥー教徒以外非公開だが、アエル・ガートの火葬場や、周囲の寺院は眺めることができる。
泣いている家族たちが、遺体が次第に焼かれて灰になっていくのを見つめている。遺体は火にもだえるように時おり寝返り、時おり軽くはぜながら、ヒマラヤ山脈へと煙を巻き上げる。数時間後、遺灰はバグマティ川に流され、こうして人は、空と、山と、川と、そして大地に返る。
近くには安産祈願の神に祈る母親がひとり。生と死が渾然一体となったヒンドゥーの教えの秘密が、ここにある。
ストゥーパの街、カトマンズ
かつては湖の下にあったカトマンズ。伝説によると、文殊菩薩が剣で湖を切り開いた際、水が引いて最初に現れたのがこの丘だ。寺院はスワヤンブナート ©牧哲雄
ボダナートの知恵の目。民家やら通りやらでこのブッダの目をよく見かける ©牧哲雄
ストゥーパとは、もともとはブッダが荼毘にふされた(火葬された)際、仏舎利(ぶっしゃり=ブッダの遺骨・遺灰)を10に分けて埋葬したその墓のことをいう。やがてアショーカ王が仏舎利を数万に分けて各地に配り、さらに各地で細かく分けられて世界へと広がっていった。この仏舎利を収めたブッダの墓こそがストゥーパで、日本の三重塔・五重塔もその一種だ。
ネパール仏教のストゥーパは独特だ。まず、ストゥーパの4面に描かれた目。これを「知恵の目」という。実はこれ、ヒンドゥー教徒の民家にも仏教の民家にも見られるのだが、いずれにせよ神の目を表し、この世界が神が見つめるひとつの空間にあることを示している。
スワヤンブナートと、その下には煩悩を滅ぼす仏教の法具ヴァジュラ(金剛杵)
さらに、人々は手にマニ車と呼ばれる仏具を持ち、これを回しながら巨大なストゥーパを時計回りに回る。この巡礼をコルラという。マニ車には経文が収められていて、回すことで経を唱えたことになるそうだ。