世界遺産/アジアの世界遺産

アジア西部の世界遺産

乾燥した大地からなる西アジア、ステップが広がる中央アジア、緑豊かな南アジアからなるアジア西部。メソポタミア、インダスという大文明をもたらし、世界三大宗教を生んだこの地域の世界遺産を紹介しよう。

長谷川 大

執筆者:長谷川 大

世界遺産ガイド

アジア西部のおすすめ世界遺産

バラ色の都市と異名をとるヨルダンの世界遺産「ペトラ」のハイライト、エル・ハズネ。ピンクに輝く高さ100mの断崖絶壁に、幅わずか3~5mの細道シークが口をあけていて、このシークを約1.5km進むと突然この遺跡が現れる

バラ色の都市と異名をとるヨルダンの世界遺産「ペトラ」のハイライト、エル・ハズネ。ピンクに輝く高さ100mの断崖絶壁に、幅わずか3~5mの細道シークが口をあけていて、このシークを約1.5km進むと突然この遺跡が現れる

ここでいうアジア西部は、インドからイランにかけての南アジア、カザフスタンやキルギスら5か国からなる中央アジア、シリアからアラビア半島にかけての西アジアを示す(トルコとロシアはヨーロッパ東部へ)。

この地域はインド半島を除き、ほとんどが樹木のない乾燥地帯だ。中央アジアには世界最大のステップが広がり、イランからアラビア半島にかけては砂漠が連なっている。カザフスタンの「サルヤルカ - カザフスタン北部のステップと湖沼群」といった世界遺産があるが、乾燥地帯だけに自然遺産は非常に少ない。

乾燥地帯で重要なのは水。水場を守るために、チグリス・ユーフラテス川のメソポタミア文明やインダス川のインダス文明のような強大な国家が興った。世界遺産でいえばイラクの「アッシュール(カラット・シェルカット)」が前者の、パキスタンの「モヘンジョダロの遺跡群」が後者の遺構だ。

オアシス都市として栄えたブハラのチャハル・ミナール。青ドームの建物が中央アジア共通の特徴

オアシス都市として栄えたブハラのチャハル・ミナール。青ドームの建物が中央アジア共通の特徴

この辺りはアジア・ヨーロッパ・アフリカをつなぐ要衝でもあり、古くから砂漠やステップを移動する隊商=キャラバンによる交易が盛んだった。シルクロードではウズベキスタンの世界遺産「ブハラ歴史地区」やシリアの世界遺産「パルミラの遺跡」のような隊商都市が繁栄した。

宗教的にも重要な土地で、西アジアでユダヤ教が誕生し、やがてキリスト教とイスラム教が派生する。これら3教35億人が聖地とするのが世界遺産「エルサレム」だが、イスラエルとパレスチナ、アラブ諸国の間で争いが絶えず、領有権さえ確定していない。

これらとまったく異なる自然と文化を見せるのがインド半島だ。高山や砂漠・ステップから森林や熱帯雨林まで、熱帯と温帯のあらゆる気候が見られ、世界遺産ではネパールの「ロイヤル・チトワン国立公園」やインドの「マナス野生生物保護区」がジャングル、バングラデッシュの「シュンドルボン」やインドの「スンダルバンス国立公園」は大湿地帯、ネパールの「サガルマータ国立公園」やインドの「ナンダ・デヴィ国立公園及び花の谷国立公園」は8,000m級の高山だ。

 

ヒンドゥー建築の影響が残るクトゥブ・ミナール。写真左の塔は高さ約73mで、1日5回の礼拝=サラートを告知する塔=ミナレットとしては世界一高い

ヒンドゥー建築の影響が残るクトゥブ・ミナール。写真左の塔は高さ約73mで、1日5回の礼拝=サラートを告知する塔=ミナレットとしては世界一高い

インド半島では仏教やジャイナ教、ヒンドゥー教などの宗教が生まれ、のちにイスラム教も浸透した。関連する世界遺産も多く、仏教ではインドの「サーンチーの仏教建造物群」やネパールの「仏陀の生誕地ルンビニ」、ヒンドゥー教ではインドの「カジュラホの建造物群」「マハーバリプラムの建造物群」、イスラム教ではインドの「タージマハル」「デリーのフマユーン廟」などがあり、なかには仏教・ジャイナ教・ヒンドゥー教が混じったインドの「エローラ石窟群」や、ヒンドゥー教・イスラム教の影響を受けた「デリーのクトゥブ・ミナールとその建造物群」のような世界遺産もある。

では、アジア西部の代表的な15件の世界遺産を紹介しよう。

 

サナア旧市街

茶色に白枠が特徴的なサナアのビル群。鉄筋コンクリートを使っていない最古の高層住宅群

茶色に白枠が特徴的なサナアのビル群。鉄筋コンクリートを使っていない最古の高層住宅群

イエメン、1986年、文化遺産(iv)(v)(vi)
砂漠が広がるアラビア半島にありながら緑広がる豊かな都市で、紀元前から交易路として栄え、抗争の絶えない土地でもあった。増える人口に対応するため200~300年ほど前から石とレンガを積み上げた高層ビルの建築がはじまり、やがて世界最古の摩天楼と呼ばれるようになった。旧市街の人々はいまだこのビルに住み、男たちはジャンビーアと呼ばれる半月形の刀を腰に差し、女たちはアバヤという黒装束で目以外の肌を隠し、古くからの戒律に従って暮らしている。

 

チョガ・ザンビール

日干しレンガを積み上げて造られたチョガ・ザンビールのジッグラト。一種の神殿で、これを中心に都市国家が展開した

日干しレンガを積み上げて造られたチョガ・ザンビールのジッグラト。一種の神殿で、これを中心に都市国家が展開した

イラン、1979年、文化遺産(iii)(iv)
ジッグラトとはメソポタミアの聖なる塔で、四角錘の形からエジプトのピラミッドの起源だとする研究者もいる。これまでに確認された20基ほどのジッグラトのうち、最大規模を誇るのがチョガ・ザンビールのものだ。一辺105mの四角錘の五層構造で、紀元前13世紀前後に造られた。ジッグラトは神に捧げられた神殿だが、寺院や王宮、葬祭殿、王墓跡なども発見されており、チョガ・ザンビールはジッグラトを中心に栄えた宗教都市だったと考えられている。

 

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