世界遺産/アジアの世界遺産

カトマンズの谷/ネパール(3ページ目)

街を歩いているとヒンドゥー教のおどろおどろしい神々や男女交合像ミトゥナがあちこちに。かと思うと仏教のお寺やブッダの目に出くわしたり……。今回は街歩きが最高に楽しいネパールの世界遺産「カトマンズの谷」!!

長谷川 大

執筆者:長谷川 大

世界遺産ガイド

ネワールの歴史 ~仏教とヒンドゥー教の融合~

チャングナラヤン

カトマンズでもっとも古い寺院といわれるチャングナラヤン。繊細なネワール彫刻と、カトマンズ、パタンを見下ろす景色で有名な名所

カトマンズはヒンドゥー教の聖地であり、同時に仏教の聖地でもある。なぜこのような文化が生まれたのだろう?

コブラ使い

パシュパティナートにいたコブラ使い

もともとネパールと仏教の関係は深い。「仏陀の生誕地ルンビニ」はネパールの世界遺産だし、ブッダが活動をした北インドに近く、仏教を広めたアショーカ王もネパールを治めているなど、仏教の発祥・伝来に深く関わる土地だった。

インドやネパールで仏教は一時大きく広がるが、やがてヒンドゥー教と融合・同化し、多くは吸収されてしまう。7世紀、わずかに残った仏教の一部はヒンドゥー教のタントラの影響を受けて密教として伝承され、それが8世紀にチベットに伝わってチベット仏教として花開く。

一方、カトマンズの地に住んでいたのがネワール族で、彼らももとは仏教徒だった。しかしインドと同様にやがてヒンドゥー教と融合。さらにチベットへの玄関口であることからチベット仏教まで吸収する。

 

沐浴場

ヒンドゥー教の街には必ず沐浴場があり、人々が身体を清めたり、洗いものをしている

おかげで、たとえば仏教徒なのにカースト制に組み込まれていたり、ヒンドゥー教徒なのにチベット仏教のタルチョーで家を飾っていたり、マンダラにシヴァ神が描かれているなんてことが起こっている。実はネパールではヒンドゥー教、仏教の違いはそれほど厳密ではなく、ヒンドゥー寺院を訪れる仏教徒も少なくないという。

11世紀、ネワール族はカトマンズの地に進出すると、12世紀にはマッラ王朝を建てる。15~17世紀にかけて王朝は3つに分裂してそれぞれ首都をカトマンズ、パタン、バクタプルに置く。この3つの古都が世界遺産「カトマンズの谷」の中心的な遺産となっている。

 

ネパールの中心カトマンズ

ダルバール広場

カトマンズの旧王宮、ダルバール広場。右がマジュ・デガ、中央奥がクマリの館、左の西欧風の建物がガディ・バイサック ©牧哲雄

3古都の中でもっとも大きな街がカトマンズだ。

3つに分裂したマッラ朝だが、やがて18世紀後半にグルカ王プリトビ・ナラヤン・シャハがネパールを統一し、カトマンズを首都に定めた。カトマンズのダルバール(王宮)広場に密集する旧王宮や寺院、住居は、このマッラ朝~シャハ朝の時代に建てられたものがほとんどだ。

シヴァ・パールヴァティ寺院

ダルバール広場にあるシヴァ・パールヴァティ寺院の木像。下界を見下ろすシヴァとパールヴァティ夫妻 ©牧哲雄

ネパールの建築の特徴は、木材とレンガ、石材が見事に融合した特有の意匠。一見日本の寺社と似た印象を受けるが、石の使い方や一面に彫られた彫刻は日本のものとまったく異なっている。

ダルバール広場周辺の主な建物は、まず、マッラ朝~シャハ朝の時代に建造・増築を重ねた9層の城郭バサンタブル・バワン。シャハ朝の王たちははじめここを居城にした。すぐ近くにはシヴァ神を祀る三重塔マジュ・デガ、猿の神ハヌマーンの門=ハヌマーン・ドカ、巡礼者たちの憩いの場カスタ・マンダパ、ミトゥナで有名なジャガンナート寺院などがある。

独特なのがクマリの館だ。クマリとは、シヴァの妃ドゥルガー(パールヴァティ)、あるいは女神タルジュの生まれ変わりといわれる少女で、ネパール各地にクマリの館があって、化身である少女が慎重に選ばれて、初潮を迎えるまで神として生活している。特にダルバール広場にいるクマリは国を代表するロイヤル・クマリと呼ばれ、国王さえその祝福を受けていた。

なお、シャハ朝は2008年5月28日の王制の廃止・共和制への移行をもって終了し、ネパール王国はネパール連邦民主共和国へ国名を変えた。 
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