世界遺産/アジアの世界遺産

カトマンズの谷/ネパール(2ページ目)

街を歩いているとヒンドゥー教のおどろおどろしい神々や男女交合像ミトゥナがあちこちに。かと思うと仏教のお寺やブッダの目に出くわしたり……。今回は街歩きが最高に楽しいネパールの世界遺産「カトマンズの谷」!!

長谷川 大

執筆者:長谷川 大

世界遺産ガイド

ヒンドゥー教の聖地パシュパティナート

パシュパティナート

シヴァの化身パシュパティを祀ったパシュパティナート。シヴァを示す男性器リンガと女性器ヨーニの結合像が多数設置されている

世界遺産「カトマンズの谷」はカトマンズ(カンティプル)、パタン(ラリトプル)、バクタプル(バドガオン)という3つの古都からなっている。その中でも、四大シヴァ寺院のひとつといわれ、ネパール最高のヒンドゥー教聖地といわれるのがカトマンズのパシュパティナートだ。

火葬場アエル・ガート

火葬場アエル・ガート。人は灰に煙になって自然へと返る

パシュパティナートはシヴァ神が訪れたという伝説の聖地であり、またパシュパティナート寺院の横を流れるバグマティ川はガンガー(ガンジス川)の支流で、その水はすべてを浄化する聖なる水。

「ガンガーに遺灰を流された者は解脱できる」という伝説に従ってインドの人々がベナレス(バラナシ)を目指すように、ネパールの熱心な信者たちはこの地に集い、沐浴し、死に、焼かれている。この街には、死を待つ人専用のホスピスさえ存在するのだ。

パシュパティナート寺院自体はヒンドゥー教徒以外非公開だが、アエル・ガートの火葬場や、周囲の寺院は眺めることができる。

泣いている家族たちが、遺体が次第に焼かれて灰になっていくのを見つめている。遺体は火にもだえるように時おり寝返り、時おり軽くはぜながら、ヒマラヤ山脈へと煙を巻き上げる。数時間後、遺灰はバグマティ川に流され、こうして人は、空と、山と、川と、そして大地に返る。

近くには安産祈願の神に祈る母親がひとり。生と死が渾然一体となったヒンドゥーの教えの秘密が、ここにある。

 

ストゥーパの街、カトマンズ

スワヤンブナート

かつては湖の下にあったカトマンズ。伝説によると、文殊菩薩が剣で湖を切り開いた際、水が引いて最初に現れたのがこの丘だ。寺院はスワヤンブナート ©牧哲雄

ボダナートの知恵の目

ボダナートの知恵の目。民家やら通りやらでこのブッダの目をよく見かける ©牧哲雄

カトマンズには数千ものストゥーパ(仏塔、卒塔婆)があるといわれるが、ネパール仏教のもっとも神聖なストゥーパがボダナートとスワヤンブナートだ。

ストゥーパとは、もともとはブッダが荼毘にふされた(火葬された)際、仏舎利(ぶっしゃり=ブッダの遺骨・遺灰)を10に分けて埋葬したその墓のことをいう。やがてアショーカ王が仏舎利を数万に分けて各地に配り、さらに各地で細かく分けられて世界へと広がっていった。この仏舎利を収めたブッダの墓こそがストゥーパで、日本の三重塔・五重塔もその一種だ。

ネパール仏教のストゥーパは独特だ。まず、ストゥーパの4面に描かれた目。これを「知恵の目」という。実はこれ、ヒンドゥー教徒の民家にも仏教の民家にも見られるのだが、いずれにせよ神の目を表し、この世界が神が見つめるひとつの空間にあることを示している。

 

ヴァジュラ(金剛杵)

スワヤンブナートと、その下には煩悩を滅ぼす仏教の法具ヴァジュラ(金剛杵)

さらに、ストゥーパを飾る5色の旗=タルチョー。これはチベット文化圏で広く見られる旗で、この5色の光の中から5人の仏が現れたといわれており(ヒンドゥー教ではヒンドゥーの5神)、またストゥーパの頂上は仏の世界を現し、旗が天界へ通じる通路の役割を果たしているという。民家に知恵の目やこのタルチョーが飾られているのは、神の空間を再現しようとしているわけだ。

さらに、人々は手にマニ車と呼ばれる仏具を持ち、これを回しながら巨大なストゥーパを時計回りに回る。この巡礼をコルラという。マニ車には経文が収められていて、回すことで経を唱えたことになるそうだ。 
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