マーケティング/マーケティング事例

次世代自動販売機から読み解くマーケティングの極意(2ページ目)

2010年8月、品川駅にこれまで見たこともない自動販売機が現れました。まるで液晶テレビのような自動販売機を使ってJR東日本は何をしようとしているのか? そのマーケティング的な狙いを読み解いていきましょう。

安部 徹也

執筆者:安部 徹也

マーケティング戦略を学ぶガイド


次世代自動販売機が象徴するもの

デジタルサイネージの役割を果たす自動販売機

前に人がいない時は購買意欲をそそる映像が流れるなど斬新な仕掛け

これまで紹介してきたように、次世代自動販売機は様々な新たな機能を加えたまさに「夢の飲料自販機」ですが、一般的な自動販売機に比べ約5倍の製作費を要します。

なぜ、JR東日本ウォータービジネスは5倍のコストをかけてまで、次世代自動販売機に切り替えていこうとするのでしょうか?

それはやはり他の多くの業界と同じように、自動販売機もこれまでと同じやり方では売上が上がりにくい時代となったことを象徴しているのではないでしょうか。

今や自動販売機は世の中に溢れ、消費者は自動販売機だけではなくコンビニやスーパーなど様々な場所で飲み物を購入することができます。長い不況に突入した現代の日本において、価格が高いものは敬遠され、同じ価値を得られれるものであれば、より低価格で提供する店舗で購入することは合理的な消費行動。このような環境の中、通常の自動販売機は見向きもされなくなるという危機感が次世代自動販売機の導入に踏み切った一因とも読み取れます。

自動販売機というビジネスにおいてもイノベーションを起こして、顧客に新たな価値を提供していかなければ、衰退していく運命にあるということなのです。

次世代自動販売機の真の狙いとは?

マーケティングは顧客行動を正確に把握することが重要

マーケティングは顧客行動を詳細に把握することが重要

この次世代自動販売機は、デジタルサイネージやカメラセンサーによるおすすめなどを活用して購買を促進する以外にも、マーケティング的に非常に重要な機能を備えています。

それは、「いつ、誰が、何を」購入したかというデータを蓄積できるという機能です。これまでの自動販売機では、「何が、どのくらい」売れたというデータは取得できましたが、「いつ、誰が」というデータまでは取得できませんでした。ところが、カメラセンサーを活用することによって、次世代自動販売機ではどの時間帯に、どの性別の、どの年代の購買者が、どんな商品を購入したかを記録できるようになったのです。

このように顧客をより知ることによって、これまでわからなかった顧客行動が明らかになる場合があります。

たとえば、これまで20代の男性は夕方から夜にかけて缶コーヒーを飲むと仮説を立てていたのに、実際にデータを分析すると朝購入する場合が多いとか、若い女性に人気がある果汁系の飲料を30代の男性も好んで飲むなど、推測の域を越えなかったマーケティング仮説がデータを詳細に分析することによって消費者行動を正確に掴むことができるようになるのです。このデータを活用すれば、売上機会を向上することもできますし、欠品による売上機会の損失を防ぐこともできます。加えて、消費のトレンドを正確に把握することによって、確実に売れる商品開発にも役立てることができるでしょう。

マーケティングで最も重要なことは、「顧客をよく知る」ということです。顧客が望む商品と望む価格、望むタイミングがわかれば、確実に商品を売ることができます。

次世代自動販売機を活用したマーケティングは、私達に顧客の消費行動を正確に知ることの重要性を教えてくれるのではないでしょうか。
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