ミスター、劇団時代から続く2面性
A:そんなことはないですよ。東京の演劇界のような動員があるわけじゃないですし……。
Q:量的にはそうだったかもしれないですが、質的にはどうでしたか?
A:厳しい質問ですね(笑)。極端だと言われますね。興味のないものには一切振り向きもしないけれど、やると決めたらとことんやる。初期の劇団は単純に体育会系でした。ハードな肉体訓練をしてから台詞の練習を始める。無謀であり無知でしたが、僕だけじゃなくみんなが、一所懸命真面目に取り組んでいましたね。
Q:コメディが多かったのですか?
A:明るいものと暗いものを交互にやっていました。人が死ぬような救いがない作品の次は、ポップで楽しいバカバカしい話。それをやったらまた暗い作品、という。天邪鬼ですね。僕は、こういうものだけじゃなくて、こういうものもやるんだよ、という。
映画も『man-hole』と『銀のエンゼル』で家族を中心とした温かい物語を描いたので、ハッピーなイメージがあるようです。映画企画で猟奇殺人的なものを構想したとき、映画関係者に「鈴井さんのイメージじゃないな」と言われたんです。「鈴井さんはどこか温かい作品じゃないと」と言われて、「そう思われているのか」と気付きました。
30代前半に北海道でラジオをやっていたときも、ハッピー一辺倒ではありませんでした。毒舌で、言いたいことをガーッと言って、抗議のFAXがいっぱい来ちゃう。すると今度はそのFAXを読み上げて、その場で破る。そして、「二度と送ってくるな。ただ、オレはお前の意見を無視しなかったから、こうやって紹介したけど、オレはこう思うし、お前の意見は二度と聞かない!」とやっちゃって、またそれで抗議が来る。
そういった負のベクトルの表現者の部分が現在ではあまり知られず、「ポジティブで優しい人」、「優しい作品を作る人」と思われがちで。たまに大泉君が「あの人は怖い」と言ってるくらいです(笑)。
Q:違和感があったのですね。
A:「僕はこうである」と断定したくもされたくもないんですよ。人間には、本当に楽しいときと、沈んでいるときの両方があるし、気心知れた友達の前でバカ騒ぎしているときと、会社で会議しているときは別人格になる。
そういうものが一人の人間の中にいっぱい存在していると思うんです。だから作品も、そうであっていいと思います。それがバランス。僕はこういうダメな過去をさらけ出す執筆をしたり、映画を真面目に考えているから、タコ星人(『水曜どうでしょう』で度々登場する着ぐるみキャラ)ができるんですよ(笑)。あれがあるから、こっちもできるんです。
50代も顔を真っ赤に塗ってグルングルン周りながら「タコですっ」とか言っているおじさんでありたい。そういう両方があって僕なんです。「表裏一体、逆も真なり」というのが座右の銘で、生きる上でも、ものを作る上でもそう。なので、この本の装丁も表は白、裏は黒い顔が出るようにしてもらいました。
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