お金がないから成功できる「波乗り」経営
著 者: 主藤 孝司 (著)
体 裁: 単行本: 272 p
サイズ: 182 x 128
出版社: フォレスト出版
ISBN : 4894511533
発行日: 2003/09/20
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● ウサンくさいがまともな本
本書は最初、読むべきかどうか迷った本です。何せ、見るからに、ウサンくさいからです。書いてあることも「理念より儲け」「粗利8割の成熟商品を扱え」…などなど。
一見、奇をてらった、いかがわしい本のようです。また論理にも飛躍があります。ただ、きちんと読むと、極めてまともなことが書いてある本であることがわかります。
論理の飛躍も、本文を読めば著者が論理思考を否定、むしろ論理の飛躍こそが起業家の思考法だ、として肯定していますから、それを地で行っている本ということで許されるのでしょう。
● 小規模企業の起業家に特化してノウハウを公開
本書を評価すべき点はいくつかあります。まず、本書の対象を小規模企業の起業家に限定している点です。
その前提として起業家を、年商を目安にスイミー級からタイタニック級にまでタイプ分け、年商10億円までの起業家をサーファーズ級起業家と命名、彼らのための成功法則に特化して紹介していきます。
確かに、企業は成長するものです。その過程で、戦略から資金調達、人事、経営者の生き様まで変化します。しかもその変化は、右肩上がりの直線ではなく、階段のようにダン、ダン、ダンと上がります。
それは、ほ乳類の成長よりも昆虫の変化に近いモノです。卵、幼虫、さなぎ、成虫と段階的に変態しながら成長します。当然、幼虫時代の起業家と成虫の起業家では、成功ノウハウは異なります。
ところが、世にはびこるノウハウは、いずれもタイタニック級(年商100億円以上)の企業向けノウハウです。それをサーファー級の起業家が学んでも、頭の体操にしかなりません。
その点、本書はサーファー級という限定された起業家向けのノウハウに特化して書かれています。だから起業したばかり、またはこれから起業しようかという段階の読者が読めば、役に立つことがたくさんあります。
● サーファー級の経営の要諦はスピード
本書には、私自身がサーファー級の経営者であるからこそ、共感できる部分がたくさんありました。例えば「アルバイトやパートを戦略にせよ」というところ。理由は、意外とやる気も責任感もあり、ソリが合わければさっさと向こうから辞めてくれるというもの。
確かにサーファー級の組織で、大企業の窓際族みたいなのが一人でもいたら組織は致命的です。彼らに研修を受けさせて、モチベーションを上げて、なんて事をやってたらひとたまりもありません。
チャンスが来たらさっとアルバイトを集めて稼ぐだけ稼ぎ、潮が引けばさっと去ってもらう。そんな流動的な組織の魅力は、少しでも組織を運営したことのある人なら分かるはずです。
結局、サーファー級の経営の要諦はスピードであり、そのための身軽さなのです。「ウニ丼が必要なのにウニがなければ、プリンに醤油をかけて食えばいい!」という喩えは、笑えますが、感覚としてはよく分かります。正鵠を射た表現だと思います。
● お金がないからこそ、成功できる
もう一つ気に入ったのは、タイトルにもある「お金が無いから成功できる」の点です。「お金が“無くても”」ではなく「お金が“無いから”成功できる」のです。
これには、私も全く同感です。世の中には起業=お金が必要、と思っていて、かえって動けない人が多すぎます。起業志望者の中には、大した工夫もせず、安易に金の無心に来る人が多いのです。「お金があればできるんですが…」という起業家をこれまでイヤと言うほど見てきました。
一度、ある起業家が私のところに地元の某団体の創業支援担当者(銀行天下り)と一緒に「すばらしいビジネスプランがあります。1億あれば成功できます。出資者紹介してくれませんか?」やってきたことがあります。
その人は、出資者を捜して5年もプータロウをしているとのことでした。私は彼に「そりゃ誰だって1億円あれば、そこそこ成功できますよ」と言って、お引き取り願いました。
確かに、お金があればできることはあるでしょう。でもお金がなくてもできることもまた、この世には、いくらでもあります。私は、ビジネスは倍率で評価されるべきモノだと思っています。だから、1億円を10億円にできる起業家よりも、1万円を1億円にできる起業家のほうを尊敬します。
上述の起業家も、本物の起業家なら、その5年間を金の無心に費やすのでなく、他のカネのかからないビジネスに費やしていたはずです。そして5年の間に、1億円くらいのお金は稼いでいたはずです。
5年という時間の重さを理解できず、それを金の無心だけに費やしてしまうなんて、それ時点で起業家失格と言えます。
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