利用者不在の縦割り行政
実習中、同じ法人が運営している救護施設と婦人保護施設、児童養護施設、特別養護老人ホームを見学させてもらいました。ここでは、婦人保護施設の見学で感じたことをまとめてみます。婦人保護施設は、売春防止法に基づき、もともとは売春を行うおそれのある女性を収容していた施設。今は障害者、浮浪者など生活上の困難を抱えた女性のほか、2001年のDV防止法施行後は、夫の暴力から逃れてきた母子の緊急一時保護も行うことになりました。
しかし、本入所と呼ばれる生活上の困難を抱えた利用者とDV被害者は、まったくタイプが違い、必要な援助もまるで違います。たとえば自立にむけて、食堂で食事をする際はパジャマから洋服に着替えましょう、など、生活習慣を身につけるよう本入所者に指導しているそばを、ボサボサ頭でパジャマ姿のDV被害者が通っていく。しかし、命からがら夫のもとから逃げてきた被害者には、何にも気を遣わずゆっくり過ごすことが必要であり、注意することはできません。
また、本入所者の中には、事情があって子どもを置き去りにしてこざるを得なかった方もいます。そういう方が、入所してきた子連れのDV被害者の子どもたちに接すると(子連れのケースがほとんど)、激しく動揺する場合があるそうです。
この、まったく違う、場合によっては対立しかねない2タイプの入所者を、少ない人数でどう処遇するかがとても難しい、と職員の方は話しておられました。たしかに、本入所者にお会いしてみて、実習先の母子生活支援施設に入所しているDV被害者たちとはまったく違うと思いました。はたして政府は、施設の実態をきちんと把握していたのか? 単に「婦人保護施設」という名称から、DV被害者もここで保護すればいい、と簡単に決めたのではないかと勘ぐりたくなります。
本来的に言えば、緊急一時保護は、DV被害者を受けれている母子生活支援施設ですべて受け入れるほうがスムーズです。実際、母子生活支援施設にも緊急一時保護の部屋が用意されています。しかし、婦人保護施設には、受入可能数、目一杯まで次々と保護依頼が来るのに、母子生活支援施設の緊急一時保護は、私がいた2週間、使われることはありませんでした。
DV被害による一時保護のニーズは高まっているというのになぜなのか。
その理由はこうです。
婦人保護施設での一時保護は、都道府県の婦人相談所からの依頼によって行われます。一方、母子生活支援施設での一時保護は、市町村の福祉事務所からの依頼。つまり、婦人相談所に相談に行って一時保護を求めると、紹介されるのは婦人保護施設だけ。定員いっぱいだからといって、近隣の空いている母子生活支援施設を紹介してはくれないのです。
縦割り行政の弊害。
本当に驚きました。さらに言えば、母子生活支援施設の定員に余裕があるのに、予算がないからといって入所させてくれない市もあるという、もっと驚くような話も聞きました。
母子生活支援施設などへの入所措置は、保護された、あるいは申し立てた市町村で行われます。緊急に保護してほしくても、どこの市町村だとスムーズに保護してもらえるかをあらかじめ調べた上で駆け込まないといけないのか! と腹が立ってきました。
……と実習に行っても、行政に憤ってしまった宮下でした。
※この項は職員の方々の話から得た情報をもとにまとめましたが、私の理解が間違っている部分があるかもしれません。もし誤解がありましたら、ご指摘いただければ幸いです。