首都圏では8万戸超、近畿圏でも3万戸超の新築分譲マンションが毎年建設され、今もって「マンションブーム」が続いています。販売が好調だと、同時に家具・家電製品の売れ行きを刺激し、また、引越し業者の受注増などにもつながることから、マンション建設は経済を下支えし、景気回復の原動力となることが期待されます。ところが、東京都心部を筆頭に“行き過ぎた”建設ラッシュが散見されたことで、マンション建設を「規制」=「高さ制限」する自治体が目立つようになりました。
常識的に考えれば、建設規制は経済活動を縮小させ、かえって“マイナス効果”と考えられますが、景気回復が本格化してきた中で、高さ制限を設ける自治体が増えている理由は一体何なのでしょうか?また、マンション市場に影響はないのでしょうか?現状を探ってみました。
東京・江東区の建設規制がそもそもの原点
マンション建設が始まれば、必ず反対運動が起こる…………こうした現象は、ある種、条件反射のようなもので、『再開発のあるところに、反対運動あり』という具合に、いたる所で見られる光景です。住み慣れた住環境がマンション建設によって台無しにされることを危惧する周辺住民が、供給業者(=マンションの分譲業者や建設業者)に対して建設中止を訴えるわけです。
ところが、このような「供給業者」VS「地域住民」といった対立軸から「供給業者」VS「自治体」へと変化してきているのがここ数年の傾向で、当事者の一方が個人(地元住民)から行政(自治体)へ移っているのは興味深いところです。
思い起こせば、2002年に東京都江東区が、急激なマンション建設による人口流入で同区内の小学校の入学定員が追いつかなくなり、区内に建設を予定していたマンションの建設規制を行なったのが、行政による規制の出発点といえるでしょう。この一連の騒動が、以後、各地に同様の動きを飛び火させる契機となりましたが、江東区では2004年1月、「マンション建設計画の調整に関する条例」を施行。事業者が土地取引(マンション用地の取得など)を行なう前に同区に“届け出”をさせ、江東区が公共公益施設(学校など)の整備状況との調整を図りながら届出内容に対して意見できるよう、ルール化に踏み切りました。
地域の「景観価値」を保全し、良好な街並みを維持したい
まさに、他に先駆けた行動といえますが、ここ最近、規制を急ぐ各自治体の導入理由は江東区とは違っていました。企業が資産リストラした社宅跡地や合併により廃業した支店の跡地などが次々と高層マンション用地となり、今まで住んでいた街並みがタワーマンション建設によって悪化していったために、地域の景観価値を保全し、良好な住環境を維持したい自治体が「待った」をかけたのです。
東京都渋谷区では、ファッション店が多い代官山エリアだけでも7棟の高層ビル建設があり、2008年度をメドに同区内のほぼ全域で高さ制限を設けようとしています。また、新宿区でも第一種低層住居専用地域や高度利用地区が指定されていない地区などで、絶対高さ制限が設けられました。23区内ではその他、豊島区や世田谷区、江戸川区などでも建設規制が進んでおり、さらに、こうした傾向は広がるものと思われます。
用地価格の高騰で、マンションが値上がる(?)
無秩序に再開発されることは、街全体のブランドイメージまでも悪化させる可能性があるだけに、自治体を挙げての政策転換は歓迎できるのですが、その一方、他方面では思わぬ“弊害”が起こりそうな気配です。
8月に公表された路線価は全国平均で14年ぶりに上昇するなど、「脱デフレ」色が鮮明になってきたことで、分譲マンション業者は“強気”な販売戦略を取るようになっています。そのため、現在のマンションブームは今しばらく継続されることになり、好条件なマンション用地の取得合戦は今後も続くことが予想されます。ところが、前述のように自治体が建築規制を強化することで、マンションに適した用地(適地)はさらに限られることになり、その結果、土地の仕入れ値が上昇することが考えられるのです。都心では既にマンション用地が不足している中で、さらに規制強化によるマンション適地の縮小が進むことで、分譲価格の値上げを助長することにつながる恐れが出てきているわけです。
地元住民の景観利益を尊重すべく“良かれ”として行なった規制が、思わぬ「火種」となることは実に悩ましいことで、改めて『都心居住のあり方』を考えさせられる出来事です。「供給業者」「自治体」、そして「地域住民」すべてが『Win Win』の関係でいられるような経済合理性のある対応策が、今まさに求められています。