奈良の騒音おばさん事件 訴因は「傷害罪」で実刑判決
実は、騒音を取り締まる法律に「騒音規制法」という法律があります。しかし、本法は特定の工場から発せられる騒音、あるいは、自動車または深夜営業の飲食店などからの騒音を対象としているため、日常生活から生じる騒音(生活騒音)は規制の対象外となってしまいます。
奈良県では「騒音おばさん事件」とも呼ばれ、閑静な住宅地に住む主婦がCDラジカセを大音量で鳴らし続け、隣家の女性を不眠にするなどの事件がありました。ご記憶の方も多いことでしょう。現在は服役(懲役1年8カ月の実刑)を終え、すでに出所しているそうですが、驚いたことにその際の訴因は「傷害罪」でした。生活騒音を直接的に罰するための法律が存在しないため、苦肉の策として同罪を適用したのでした。
飛び跳ねる音がうるさいことで慰謝料36万円の支払い命令
また、07年10月にはマンション内の騒音トラブル訴訟で、被害者の損害賠償請求を認める判決が東京地方裁判所から言い渡されました。場所は東京都板橋区のマンション、当時3~4歳だった男児が跳びはねたりしたときの音により精神的な苦痛を受けたとして、階下の男性が男児の父親に240万円の損害賠償を求めたのでした。
これに対して東京地裁は、「夜間や深夜には騒音が階下に及ばないように、長男をしかるなど住まい方を工夫し、誠意ある対応を行うのが当然」と言及、「騒音は“受忍限度”を超えていた」として慰謝料など36万円の支払いを加害者に命じました。
ここでキーワードとなるのが「受忍限度」(じゅにんげんど)という言葉です。受忍限度とは、「ここまでなら我慢できる」というボーダーラインのこと、大多数の人が「うるさい」と感じる限界点を指します。そして、受忍限度を超えていると認められれば、法的にも「生活騒音」と認められる仕組みです。本件では受忍限度が認定されたことで、被害者の勝訴につながりました。
しかし、受忍限度内か否かの判定は難しく、容易に(超えていると)認められるものではありません。以下のような項目(要素)を基礎として、総合判定されることになっています。
<受忍限度の判断要素>(主なもの)
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今回はマンションの騒音トラブルを取り上げましたが、防音対策について完全な解決策は今もって存在しません。おそらく今後もそうでしょう。騒音問題とは突き詰めれば「人」の問題です。お互いが気を付け合う精神があって初めて、解決への道を歩み出します。
それだけに、まずは我が身を振り返り、近隣住人と“風通しのいい”人間関係ができあがっているか確認することが肝要です。問題収束への第一歩は「居住者同士のコミュニケーション」……このことは今も昔も変わりません。心を通い合わせることが、騒音トラブルを解消する原点となるのです。「うるさい」と他人をとがめる前に、まずは自身の足元を見つめ直す勇気が必要といえます。