マネジメントスキルとしてコーチングは普及しましたが、マネージャーがコーチングを受けることはまだ一般的ではありません。「マネージャーにコーチングは役立つのか?」をテーマに、日本能率協会コンサルティングの田中信氏に聞きました。
《CONTENTS》●諦めているマネージャーが多すぎる(1P目)●"自己効力感"を高めることが必要(1P目)●ありのままの自分を認める場を作る(2P目)●コーチングを受けることがコーチング力を高める(2P目)
諦めているマネージャーが多すぎる
――田中さんはコーチングや自発性開発のワークショップを通じて、企業のマネージャーに多く接していますが、どのような印象をお持ちでしょうか?
田中:残念な状況ですが、ビジョンを持つことを諦めているマネージャーが多いですね。自分なりのビジョンを持って入社はしているんですが、入社すると自分の力量が足らずに実現できないことが多い。そして、先輩や上司に『これでもか!』というぐらいに、自分の仕事力の無さを味あわされるうちに、自分が思っているビジョンなどは所詮無理だと考えてしまうんです。
――この状況を経営者はどう感じているんでしょう?
田中:経営者は逆に、自分のやりたいことを諦めずにガンガンと主張してくるマネージャーを渇望しています。ここにギャップがあるんです。渇望している経営者に対し、マネージャーは引っこんでしまっています。
――今の時代、率先して変革を起こしていくことが求められていることは、マネージャーであればわかっているはずですが……。
田中:もちろん、変革が求められていることは彼らもわかっています。ただ、変革だけでなく既存のビジネスを維持することも求められていて、それで手一杯になっているという事情もあります。やはり、変革者は今も少数派です。
"自己効力感"を高めることが必要
田中:ただ、多くのマネージャーは変革を起こしていく力を持っています。もちろん最初は力が足りないのは事実ですが、すぐにだめだと思って諦める必要は全くありません。本当は自分のビジョンはそのまま育てていけばいいんです。その実現のために時間をかけ、人脈も含めて、力を高めていければよいのですが、実際には"自己効力感"を封印をしてしまっています。
――"自己効力感"とは何ですか?
田中:"自己効力感"は、簡単に言えば自信です。『自分には力がある』、『やればできる』ということを自覚するといったらいいでしょうか。それがないために、自分が達成したいこと、大切にしたいことと、組織から求められる役割や振る舞いとの間にギャップを感じると、自分を押し殺して組織に合わせようとしてしまうのです。
――自分を押し殺してしまえば、本来の力が出ませんね。
田中:そうなんです。力が出ないので、ますます自己効力感をなくして「自分はできない」と制限をかけてしまいます。でも、どこかに無理があるので心と体が悲鳴を上げる。最近、急速に増えているメンタルヘルスの問題は、組織に対してうまく折り合いがつかない心と体をもつ人が多いのではないかと思います。
――どうやれば、"自己効力感"を回復し、高めることができるのでしょうか?
田中:そこにコーチングが活用できるんです。外部のプロコーチをつけて、定期的にコーチングを受けることが効果的です。
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