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トップセールス列伝4 エムアウト社長(2ページ目)

エムアウト田口弘社長(元ミスミ社長)は、泥臭い営業を苦手としていた。そんな田口氏がどうやって年商550億円の商社を作り上げたか?

執筆者:角田 正隆

営業力がないから得たヒント

エムアウト 代表取締役社長 田口 弘氏
「営業力がなかったから、オーダーに応えるしかなかった」

そんな日々を過ごしていたとき、あるお客様に「ベアリングではなく、ベアリングの中の部品だけを売ってほしい」という奇妙なオーダーを受ける。

通常、せっかくの製品を分解して売るような販売方法は、営業効率を低下させるため容易に許されることではない。どこへでも売り込める営業力がある担当者であれば、そうしたオーダーは断るところだが、「私には営業力がありませんでしたから、それに応えるしかなかったんです(笑)」

詳しく話を聞いてみると、発注主はその部品を金型を固定する「ロックピン」として使用するのだという。しかもそれは日本にはない製品だった。「そうであれば作って売ろう」と製造販売を試みたところ、その発注主以外にも売れる商品になった。

これに気を良くして次々と顧客の要望を製品化すると、次第に業界で「ミスミなら必要な製品を作ってくれる」という評判が広がり、自然とオーダーが寄せられるようになってきた。

「その後、商品の価格も記載したカタログを作成して通信販売をスタートしました。これも私が対面で価格交渉するのが苦手だったからです(笑)」


販売代理店vs購買代理店

ADCT
ジュエリーリフォーム専門店「ADCT」

よく考えてみれば、工場相手に製品を売り込んでいるのは「工具屋」と呼ばれる全国に1万社近くある中小販売会社である。扱っている商品はどこも同じで、基本的に工場に言われた製品をメーカーから取り寄せ持ってくるだけだ。プロダクトアウトの発想に基づく、文字通り「販売代理店」である。

一方、顧客のニーズを聞いた上で、それに合致する製品を探す、もしくは製品を作る田口氏のスタイルは、販売代理店とは逆の「購買代理店」という発想である。これなら営業力がなくても、他社との競争に巻き込まれない。

それを田口氏は「マーケットアウト」というコンセプトとしてまとめた。それまではまずモノを作り、作ったモノを相手に売り込む「プロダクトアウト」が業界の常識だったが、顧客が必要としているものを聞き出し、それに合致した製品を生み出す「マーケットアウト」は、大量生産時代から多品種少量生産に移った時代のニーズに合致していた。そしてミスミは一気に、東証1部に上場する業界最大手に駆け上がった。

「私に営業力があったら、こうはならなかったはず。どこにでもあるものを売るのではなく、新しい価値を売ることで、競争から抜け出ることができたのです」


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