マンション物件選びのポイント/エコマンション

ワンランク上の断熱性を持つマンションの見極め方

夏は涼しく、冬は暖かく。そんな理想的な暮らしが実現するかどうかは建物の断熱方法に大きく左右されます。今回は目に見えないけれど大切な「マンションの断熱」について解説します。(改訂2017年3月、初出2007年1月)

井上 恵子

執筆者:井上 恵子

住まいの性能・安全ガイド

断熱をしっかりしているマンションで快適に

断熱性の高いマンションはどの季節でも快適に暮らせます

断熱性の高いマンションはどの季節でも快適に暮らせます

もし、断熱をしっかりしていないマンションだったら、私たちの暮らしにどのような影響が出るでしょうか? 家の中にいても夏は暑く、冬は寒く、年中エアコンに頼らざるを得ないような、とても快適とは言えない暮らしになるでしょう。

そのような住まいでは、体調管理も難しく、月々の光熱費も高くなり、健康にもお財布にも良いことはありません。

エアコンをあまり使用しなくても四季それぞれに快適な室内環境を得るためには、目には見えない「断熱材」が建物にどのように施工されているかが大きなポイントになってきます。また、マンションの特徴として、マンション内における住戸の位置によっても環境が変わってきます。

今回はマンションの断熱について、住戸の位置による断熱のポイント、ワンランク上の断熱を施されたマンションの見極め方を解説します。

断熱材の役割

断熱材はその名の通り「熱の移動を断つ」という役割を果たします。従って熱の侵入経路になる外気に接する「床」「壁」「天井」に設けますが、マンションの場合、隣戸に接している部分は外気と考えません。マンションで断熱材が必要な部分を図にすると【図1】のようになります。

【図1】マンションの断熱で要チェックな場所は、外気に接する床、壁、天井です。

【図1】マンションの断熱で要チェックな場所は、外気に接する床、壁、天井です。


例えば、【図1】の黄色の部分に断熱材がないと、冬場せっかく住戸内を暖房で暖めても、その部分からどんどん熱が外に放出されてしまいます。夏場の場合は逆で冷房で室内を冷やしても、断熱材のない部分から冷気はどんどん外に奪われてしまいます。

このような熱の受け渡しを妨げ、少ない冷暖房エネルギーで室内を快適に保つために、適切な断熱計画が大切となってくるのです。 

マンションの最下階、最上階、妻住戸は要注意

マンションの場合、外気に触れる面積の多い(1)最下階、(2)最上階、(3)各階の端に位置する住戸(妻住戸)においては外気の影響を受けやすいため、特に断熱をしっかり施しておく必要があります。

該当する住戸を購入する場合は、以下で解説するマンション断熱の基礎知識も知っておきましょう。

マンション断熱の基礎知識

マンションで断熱材を施す場所は住戸の位置によって異なります。中住戸、最下階、最上階、妻(つま)住戸に分けてそれぞれの特徴を書き出します。

■中(なか)住戸で注意すべき断熱のポイント
上下左右を他の住戸に囲まれた位置にある住戸(【図2】オレンジの部分)を「中(なか)住戸」といいます。

【図2】マンションの中住戸は上下左右を他住戸に挟まれているため、省エネ性は良い位置にあります

【図2】マンションの中住戸は上下左右を他住戸に挟まれているため、省エネ効率の良い位置にあるといえます


自分の住戸の上下左右にある隣戸が断熱材の役割を果たしてくれます。該当住戸で熱が逃げる場所はバルコニー側及び外廊下側の壁のみです。マンションの中で省エネ性が高くなるのがこの位置にある住戸の特徴です。

■最下階で注意すべき断熱のポイント
専用庭などがついていて人気のある最下階の住戸ですが、冬場に床下からくる冷気に特に注意しなくてはなりません(【図3】参照)。

【図3】最下階の住戸は、冬の時期の床下からの冷気に注意が必要

【図3】最下階の住戸は、冬の時期の床下からの冷気に注意が必要


「最下階」に該当する住戸は、真下に住戸がなく、ピットとよばれる設備配管用のスペースやエントランスホール、駐車場、管理人室などが配されている住戸になります。必ずしも1階住戸が該当するわけではなく、2階にも「最下階住戸」はあり得ます。きちんと断熱計画をしているマンションでは、この最下階住戸の床下全面に断熱材を敷き込んで対応しています。

■最上階で注意すべき断熱のポイント
見晴らしがよく人気のある最上階住戸では、天井面が直接太陽から照らされます。従って夏場、上からくる熱気で部屋が暑くなりやすいため、断熱計画としては、【天井全面】に断熱材を敷きこんで対応する必要があります(【図4】参照)。天井面の断熱方法には天井の外側に断熱材を敷き込む「外断熱」と室内側に断熱材を敷き込む「内断熱」があります。

【図4】マンションの最上階は夏場屋上から伝わる熱に注意が必要です

【図4】マンションの最上階は夏場屋上から伝わる熱に注意が必要です


■妻(つま)住戸で注意すべき断熱のポイント
住棟の両端に位置し、壁の三方が外気に面している位置にある住戸のことです(【図5】参照)。

【図5】妻(つま)住戸とは、住棟の両端に位置する住戸のこと。外壁面積が大きく、省エネ性の観点では不利

【図5】妻(つま)住戸とは、住棟の両端に位置する住戸のこと。外壁面積が大きく、省エネ性の観点では不利


三方が外に接する壁なので、窓がたくさん取れること、バルコニーを広く設けることが可能なことから開放感があり、この位置にある住戸は人気があります。しかし省エネ性の観点からは、外気に接する壁が多いため、中住戸より条件が劣ると言ってよいでしょう。妻住戸を購入する場合は、外気に面した三方の壁にきちんと断熱材が施してあるか確認してください。

ワンランク上の断熱は「熱橋(ねっきょう)」がポイント

今まで述べたように、基本的に「外気に触れる部分」に断熱材を隙間なくきちんと施してあるかどうかがその住戸の断熱性及び省エネ性を左右する大切なポイントです。

古いマンションやグレードの低いマンションでは、残念ながらどこかの断熱材を省略していたり、厚みが足りなかったりすることもあります。さらに性能にこだわりきちんと計画されたワンランク上のマンションは、熱橋(※)の部分にもきちんと断熱材が施してあります。

※熱橋(ねっきょう)……建物のある部分で熱の行き来が生じる部分。床スラブと壁スラブの交わる部分など。ヒートブリッジともいう。

【図6】はマンションのバルコニー付近を縦に切った断面図で、黄色い部分が断熱材を示しています。右の図は断熱材が床スラブで途切れた部分の断熱材を折り返して施工しており、熱橋からの熱の出入りを防いでいます。

【図6】マンションのバルコニー付近の断面図。熱橋部分と折り返し断熱。折り返し断熱がないと壁と天井の交わる部分から熱が入ってきやすく、弱点となります

【図6】マンションのバルコニー付近の断面図。熱橋部分と折り返し断熱。折り返し断熱がないと壁と天井の交わる部分から熱が入ってきやすく、弱点となります


しっかり断熱が施されたマンションの見極め方

断熱材が切れる部分(熱橋)にきちんと断熱の折り返しをしているか、確認する方法はいくつかあります。

まずはモデルルームで営業担当者に聞いてみてください。ただし、この質問はかなり専門的なので営業担当者からすぐに答えがもらえるかどうかはわかりません。その場合、設計担当者に問い合わせをしてもらい、後日でもよいのでお返事をもらってください。

もしくはモデルルームにマンションの設計図面が備えてあれば、断面図もしくは断面図をより詳細に描いた矩計図(かなばかりず)を見て、【図6】を参考に、断熱材の折り返しがあるか確認してみてください。

もう一点の確認方法は、住宅性能表示制度を利用している物件なら「設計住宅性能評価書(または建設住宅性能評価書)」を見せてもらうことです。「住宅性能評価書」とは、そのマンションの性能や品質が一目でわかる成績証明書のようなものです。

この書類の「5.温熱環境・エネルギー消費量に関すること」で、「5-1 断熱等性能等級」という項目をご覧ください。ここではその建物の断熱性の評価が等級1~等級4のいずれかで表示されています。ここで等級4を取っていれば、まず安心してよいでしょう。


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