法務局に備えられた重要な資料の1つに「公図」があります。不動産の取引などをしたことがない方にとっては、言葉で説明してもピンと来ないかもしれませんが、登記された土地の地番や位置、形状などを表す地図のことです。土地だけに関する図面のため、その土地上の建築物などは表示されていません。
不動産取引には必要不可欠な「公図」ですが、現実にはさまざまな問題を抱えています。その原因を探ってみると……。
公図のルーツ
公図の基となる最初の地図が作製されたのは、今から100年以上前、明治初期に行なわれた地租改正事業まで遡ります。この事業は地租(税金)を徴収する目的で、それぞれの土地1筆ごとに測量が行なわれました。しかし、当時の測量技術の稚拙さばかりでなく、住民からの申請方式だったために過小申告したり、測量に携わるのも地元住民だったため、正確さに欠けるものが数多くあったようです。
そして、その不正確な1筆ごとの図面を繋ぎ合せて地図を作製したために、だいぶ無理をした部分もあったようです。さすがに、そのままでは使いものにならない状態のものもあり、明治中期に再調整が行われましたが、不正確さは残ったままでした。しかし、このときの地図がそのまま引き継がれて、現在でも多くの法務局で「公図」として使われているのです。
公図の信頼度は?
もちろん、明治期に作製された和紙の地図のままで現在も使われているわけではなく、「マイラー」と呼ばれる半透明のシートに転記されたものになっています。しかし、大判和紙のときに何度も開いたり折り畳んだりしているうちに、記載文字が判別できなくなってしまったり、転記の際に抜け落ちてしまったりした部分も実際にはあるようです。もともと不正確な地図に、その後の分筆や合筆などの情報(境界線)を書き加えたり削除したりしていますから、実際の土地形状とは全く違う状態になっている場合もあります。特に以前は山林や畑などであったような土地では、その狂いが大きいでしょう。
ただし、大規模な宅地造成や区画整理が行なわれたところでは、それに合わせ地図を作り直している場合が多く、これは精度が高いものになっています。
法14条地図(旧17条地図)
この公図ですが、実は昭和35年の法改正によって法律的根拠を失っています。しかし、これに代わる図面の整備が遅々として進まず、整備されるまでの暫定的な措置として「地図に準ずる図面」という公図の位置付けになっています。その暫定措置が50年以上も続いているわけです。法律に規定される地図は、国土調査法に基づいて高精度な測量・調査(地籍調査)を完了した地域で作製されるものです。地籍調査によって作製された「地籍図」を法務局に備えるのですが、これは不動産登記法第14条に規定されているため「法14条地図」(または法14条1項地図)といわれます。平成17年(2005年)に改正不動産登記法が施行されるまでは、同規定が17条にあったため「法17条地図」と呼ばれていました。
従来の公図に代わって法14条地図が整備されていれば、その精度はかなり高くなっているはずです。ところが、同じ地籍調査でも昭和30年代、40年代など初期のものと現在とでは精度のレベルが異なっています。そのため一部には、土地境界の再現性などに問題がある法14条地図も存在するようです。
地籍調査の完了状況は、平成23年度末現在で青森県が92%、岩手県が90%、宮城県が88%、岡山県が84%などと高率になっている反面、京都府が7%、大阪府と三重県が8%、奈良県が11%、愛知県が12%、神奈川県と千葉県、福井県、滋賀県が13%、石川県が14%、岐阜県が15%、東京都と栃木県、兵庫県が21%など低率に留まっています。全国平均では、ようやく50%に達したところです。これを市町村別にみると、地籍調査を完了した市町村が27%なのに対して、現在も未着手の市町村が14%にのぼっています。
とくに調査の重要性が高い大都市圏ほど遅れが目立ち、地積調査や法14地図の整備が全国的に完了するのは、いったいいつになるのか見当もつきません。いくら正確性に欠けるとはいえ、まだまだ公図のお世話にならざるを得ない地域が多いことでしょう。
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