賃貸借契約によって借りている部屋が気にいったのであれば、その部屋を購入するというのもひとつの考え方ですが……。



question
いま住んでいる街が好きで実家にも近いため、この周辺でマンションを探していたのですが、なかなか条件に合う物件がありません。現在は分譲タイプのマンションを所有者から借りており、少し家賃が高いものの希望する条件にも近く、住み心地やマンション内の人たち、子供の親同士などとのお付き合いも含めて結構気にいっています。主人との話し合いでも「もしこの部屋を買えるのならそれが一番じゃない?」ということになったのですが、そのような買い取りの交渉を所有者とすることはできるのでしょうか? また、このようなケースで気をつけるべきことは何でしょうか? ちなみに、このマンションは築5年で、私たちが借りてからちょうど3年が経っています。
(東京都目黒区 匿名 30代 女性)



answer
住宅購入をめぐる失敗には、物件をよく見ないままで買ってしまい、思いがけず使い勝手の悪い部分や欠点があったとか、予想に反して環境や眺望が悪かったとか、あるいは周りの住民とうまくいかないなどというケースもあるのですが、いま住んでいるマンションを気にいってそれを購入できるのなら、そのような心配もなくて安心でしょう。

当初から一棟のすべてが賃貸マンションとして建てられたものの一部屋を買うことはほとんど不可能です(絶対にできないわけではありません)が 、分譲タイプのものであれば買い取ることのできる可能性は十分にあります。

高層マンションの外観

所有者が売却に応じるかどうかは、交渉してみなければ分からない

もちろん、売買の交渉を所有者との間ですること自体に何ら問題はありません。

しかし、「買いたい」と意思表示をしたからといってそれほど簡単に購入できるわけでもなく、さまざまなハードルが存在します。

まず、交渉をする価格の目安をつけなければなりません。始めの作業として、そのマンション自体の売買事例や周辺マンションの売買事例を集めて比較検討します。

このとき、ちょうど売り出し中のものがあれば、広告を集めたりwebで検索したりして比較対象物件を見つけることもできるでしょうが、既に契約が成立した事例などは不動産業者の手を借りなければ難しい面もあります。

不動産業者が査定をする場合には、それぞれの売買事例の条件による違いや方位、階数などによる補正をするのですが、最初の段階でそれほど細かく考える必要はないでしょう。

ご質問のように賃貸中の物件であれば、その賃料から逆算して価格をつける方法もあります。

マンションなどの賃借人をそのままにして売買することを一般に「オーナーチェンジ」といいますが、このときに目安となるのは表面利回り(賃料年額/売買価格)です。また、表面利回りとは逆のPER(売買価格/賃料年額)という指標が用いられる場合もあります。

マンションの場合の表面利回りは、新築に近いもので4~5%程度、中古の場合には6~8%程度のことが一般的なものの、物件の条件(立地、築年数、間取り、その他)や不動産市況などで大きく異なりますから、一概に決めることはできません。

ちなみに、一般的なオーナーチェンジ物件の売買価格は、空室の場合よりも少し安い設定になることが多いでしょう。

売買価格が高いほど表面利回りは低くなるのですが、仮にご質問のマンションの賃料(管理費等込み)が月額20万円(年額240万円)だとします。これを表面利回り6%(管理費等込み)で売買しようとすれば、その価格は4,000万円です。同様に表面利回りを7%で計算すれば約3,430万円の売買価格になります。

このような仮定のもとで自分の資金計画と照らし合わせ、住宅ローンの借入れ額、毎月の返済額などのシミュレーションをしてみるとよいでしょう。

その際に現在の賃料との比較もすることになりますが、購入すれば管理費修繕積立金固定資産税などの負担が生じることを忘れてはいけません 。

しかし、利回り水準による価格よりも高く、通常の売買事例などによる相場どおりの価格を提示したとしても、所有者が売却に応じるかどうかは別問題でしょう。仮に売却の意思があったとしても、「売りたくても売れない」という状況も考えられます。

所有者がその物件を売却するメリットが見出せない場合だけでなく、相場による売却価格よりも住宅ローン(当初から賃貸目的で購入した場合にはアパートローンなど)の残高が大きく、売却後に借金が残ってしまうような場合にも、所有者が売却に応じることは難しいでしょう。

家賃収入があればそのままローンの返済ができるけれども、売ってしまったら残った借金を返せないというケースもあるのです。

ご質問のような買い取り交渉をするときには、その相手が誰なのかを確認することも必要です。

たいていは当初の賃貸借契約のときの重要事項説明書に所有者である登記名義人が記載されているでしょうが、賃貸借契約の相手先(賃貸人)は必ずしも所有者とは限らず、第三者(賃貸専門の不動産業者など)がいったん借り上げたうえで転貸しているケースも少なくありません。

マンションの外観

現在の本当の所有者が、借主の認識と違うケースもある

このような転貸借契約(賃借人からみた場合には通常の賃貸借契約と何ら変わりがありません)のとき、売買などで所有者が変わっても賃借人へは通知されないこともあり、現在の所有者はまったく別の人である場合も考えられます。

また、転貸借ではない通常の賃貸借契約でも、その物件が相続されたり身内に贈与されたりして所有者が変わったときに、その変更が賃借人へ通知されていないケースもあるでしょう。

そのため、まずは管轄の法務局登記事項証明書を取得して、現在の登記名義人(所有者)が誰なのかを確認します。

そのときに対象となるマンションの地番家屋番号などが分からないと、初めての人にとってはややこしい作業(仕組みを知ればそれほど難しいわけではありません)になりますが、窓口にマンション所在地の町丁目ごとに分類した一覧ファイルを備えている法務局もあります。

登記事項証明書によって所有者を確認するのと同時に、抵当権などの設定金額も確認します。これは借り入れ当初の金額であり、決して現在の借入残高ではありませんが、この金額が相場と比べて異常に大きければ売買自体が難しいことも考えられます。

逆に抵当権の金額が極めて小さい、あるいは抵当権の設定そのものがないような場合には、あなたの支払った家賃がまるまる所有者の収入(税金や管理費・修繕積立金を除く)になっていることもありますが、老後の安定収入を目的にそのマンションを購入した所有者などであれば、売却に応じる可能性はだいぶ低いかもしれません。

また、抵当権などの設定件数が多く、所有者が住宅ローン以外にいくつもの相手から金銭の借り入れをしているようなときには、所有者が破産寸前のことも考えられます。

そのような場合、一概にはいえませんが不動産競売などの手続きへ入る前に、相手側から買い取りの打診をしてくることも多く、通常の売買相場よりも1~2割程度安い価格を提示されることもあるでしょう。

とはいえ、登記内容だけであれこれと勝手な想像をして判断を下すことは避けなければなりません。現実には所有者に聞いてみなければ分からない部分が多いものです。

さらに、もともとは分譲タイプのマンションだったとしても、投資家が丸ごと一棟を買い取って賃貸をしている場合もあります。

このようなときは、各部屋ごとの区分登記がされていないケースもあり、これに該当する場合には(新たに区分登記などをすれば必ずしも不可能ではありませんが)一部屋ごとの売買自体ができないことになります。

いずれにしても、所有者の意向を確認しないことには話が進みません。

このとき、所有者との間で直接、交渉や売買契約などをすれば不動産業者への媒介手数料なども不要となりますが、いろいろな法律問題なども絡みますから、少なくとも専門家のアドバイスなどを受けながら話を進めるようにしたほうがよいでしょう。

また、金融機関へ住宅ローンの申し込みなどをする際には、「不動産業者が作成した重要事項説明書と売買契約書」の提出を求められる場合もありますからご注意ください。


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