映画にしても舞台にしても、主人公は若くてカッコいい男の子とやせててキレイな女の子と相場が決まっています。そんな「常識」を痛快にひっくり返してくれるのがミュージカル『ヘアスプレー』です。
『ドリームガールズ』の興奮と、『プロデューサーズ』の爆笑と、『トーチソング・トリロジー』の魂と、『エデンより彼方へ』の愛が奇跡的に融合したような傑作です。ジョン・ウォーターズらしい毒が、素晴らしい歌とダンスと役者たちの魅力によって、マイノリティたちの讃歌として、見事に明るくパワフルな感動作へと昇華しています。
今回は、現在公演中(始まったばかり)のミュージカル『ヘアスプレー』をご紹介します。
ヘアスプレー
1960年代のボルチモアを舞台に高校生たちが繰り広げる青春ミュージカル。でも、メインを張るのはマイノリティばかりです


「常識」にとらわれない愛のカタチ


『ヘアスプレー』には様々なカップルが登場します。
TVにも出演するほどのイケメンな男の子は初め美人な女の子と仲よくしていますが、主人公のおデブな女の子の魅力にだんだんハマっていきます。彼女の親友でビン底めがねをかけた白人の女の子は黒人の男の子を好きになります。彼女の変わり者のパパと巨体のママ(女装)も本当に仲のよい夫婦です。
それ以外にはカップルは特に登場しません。「普通」のカップルが皆無なのです。

おデブってとってもチャーミング! 黒人ってなんてカッコいいんだろう! 女装ってホントにステキ! 「普通」じゃないことこそがステキだというメッセージがビンビン伝わってきます。

そして、そんなマイノリティを「差別しませんよ」って顔で無視したりやんわり遠ざけたりするのではなく、マイノリティこそを本気で愛し、周囲の猛反対を押し切って命をかけてつきあおうとする姿が、本当にけなげで素晴らしいです。涙なしには見れません。

そして、たとえば映画『エデンより彼方に』のように、白人と黒人の愛を悲しいメロドラマとして描くのとは対照的に(それはそれで本当に泣けましたが)、この『ヘアスプレー』では、すべてが底抜けに明るいコメディとして描かれているところがまた素晴らしいのです。

愛は自由です。男性だろうと女性だろうとどちらとも言えない人だろうと、肌の色が白だろうと黄色だろうと黒だろうと、太っていようと、年を取っていようと、ハンディキャップを持っていようと(最近は「チャレンジド」と言うそうです)、病気を持っていようと、どんな人でも愛することができるし、どんな人とでも愛し合う権利があります。
そのことを、これ以上雄弁に、楽しく描いた作品を、僕はほかに知りません。