「和菓子は五感の芸術」とも言われますが、そのうちの「聴」は、お菓子につけられた銘(名前)のこと。お茶席などで用いる上生菓子の菓銘には、宮中の行事や和歌にちなんだものなど、理解するのに知識が必要なものもあり、それが楽しみであると同時に、和菓子の敷居の高さとなっているのかもしれません。今回は、もっと菓銘を楽しんでいただけるよう、恋にまつわる菓銘を持つ和菓子をご紹介したいと思います。バレンタインには、相手を想う気持ちを、菓銘に託してはいかがでしょう。
清月堂本店の「おとし文(ぶみ)」
「おとし文」 口どけのはかなさでせつない想いを表現しています |
当初は、文をしたためた巻物を思わせる棹形で販売されていたのですが、後に食べやすい一口大を作ったことで一層の支持を集め、今では同店を代表する銘菓となっています。「一代一菓」を家訓とする同店3代目が、昭和50年頃に創作。黄身餡独特の臭いを抑えるために、風味のよい和三盆糖が加えられた、口溶けのよい黄身しぐれです。通常、黄身しぐれというと、黄身餡が外側になることが多いのですが、おとし文は黄身餡をこし餡で包んで蒸しあげた珍しいもの。
また、バレンタインの時期には、通常のおとし文と共に、桜色のおとし文「麗(うらら)」をセットにしたものが、「恋しぐれ」という名で登場します。「麗」は、中餡に刻んだ桜葉の塩漬けを、外側の白餡に刻んだ桜花の塩漬けを練りこんだ、春の気配がするお菓子です。
源 吉兆庵 銀座店(銀座)の「恋する和菓子」
銀座店限定。 「恋する和菓子」で 菓銘も堪能 |
パリやニューヨークを始め、積極的に海外へ出店している同店ならではの、和洋が融合した「恋する和菓子」。赤コショウを飾ったチョコレートケーキ「焔」(ほむら:心中に燃え立つ激情にたとえた炎の意)や、バラ風味のゼリー「恋水」(こいみず:恋のために流す涙の意)、ココアと黒豆、ブランデーとコーヒーの2層からなる、ようかん風のお菓子「終夜」(よすがら:一晩中の意)など、現在全6種類です。
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