多彩な生パスタの食感
スペッキオでは生パスタを豊富に提供している。以前ここで紹介したが、百瀬シェフはひとつの生地から7種のパスタと24の料理ができるという本『新パスタ宣言』を書いている。そこにも登場するのが、テーブルで使うナイフを使って凹みをつけるパスタ、チカテッリである。このパスタは小指の先くらいの大きさで厚みがあるから、もっちりと噛みごたえがあるだけでなく、しっかりした味のソースと相性がいい。コース2皿目のパスタ『メカジキの燻製と牛蒡、チェリートマト、野生種ルーコラで和えたチカテッリ』。シチリア州で食べられるというメカジキの身の塊を燻製にしたものをほぐして使い、脂やコクが充分あるソースに仕上げている。加熱されてトロリと崩れたチェリートマトの果肉が、メカジキと混ざってあっさりとしたトマトソースとなっている。この料理ではイタリア北部で食べられているゴボウを加え、敢えて南と北の食材を組み合わせる。
ゴボウとルーコラは共に、シャキシャキサクサクと歯ごたえよくほろ苦さを加え、コクのある具と絡めてチカテッリを噛みしめるとほかの麺類とは違った、お菓子でいえば「グミ」のような面白い弾力が楽しめる。チカテッリはひとつひとつ形づくるのに手間がかかるが、この食感なればこそ手をかけるだけの甲斐があるのだ。合わせるパンはセモリナ粉を加えて大ぶりに焼き上げた『パーネ・プリエーゼ(プーリア風パン)』で、皮はパリッと中はしっとりしており淡白な味わいがパスタやソースの風味を引き立てる。
合わせるワインはヴェルディッキオ種のブドウを使ったマルケ州のカステッリ ディ イエージ クラッシコ スーペリオーレ。味わいはドライでかっちりと詰まったミネラル感がある。硬質なのだがエレガントなワインで、思わず背筋が伸びる。リンゴやかんきつ系のほろ苦さやハーブのような芳香があり、パスタのほろ苦さと通じるだけでなくコクのあるソースをなんなく受け止める。
小川氏が「オーナーのブッチ氏はブルゴーニュワインに大変敬意を払っていて、ブルゴーニュに負けない偉大なワインを造りたいと言われます。じつは彼はスペッキオに2度来店されていて、私もワイナリーにお邪魔したことがあるんです……」と教えてくれる。ブッチといえば、この地域でもトップクラスの生産者である。ワイン好きにはたまらないエピソードに、もっと詳しく話を聞かせてもらいたくなる。