正面から迫る料理
川崎誠也シェフの料理は、一見武骨にすら見えることがある。正面からドンと、料理の塊が迫ってくるような盛り付け。必然性のない飾りや付け合わせは排除され、「これをしっかり食べてくれ!」という迫力が感じられる。最近よく見かける、さまざまな意匠を凝らした装飾的な盛り付けとは対極にあるのではないだろうか。
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『鮑とセップ茸のチリメンキャベツ蒸し包み、肝のオリーヴオイル風味添え』 |
柔らかく蒸した小粒のアワビと、スライスしてオリーヴオイルで蒸し煮にしたセップ茸(旨味のあるキノコの一種)をチリメンキャベツ(一般のキャベツとは違い、味が濃く凸凹のある品種)で包んで蒸した料理と対面した時にも、正面から迫ってくる感覚があった。手前にちょんと盛られたアワビの肝は、きっとそこに存在する必然性があるのだ。
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切り開くと鮑の風味が立ち昇る |
この料理はきれいに成形してあるというより、無造作に包まれているだけのように見える。だがナイフを入れるとそこからアワビの香りが湯気と共にふうわりと立ち昇る。アワビはもっちりと柔かく煮上げられ、コリコリしたセップ茸と共にいい気分でキャベツにくるまり温まっているようにも見える。アワビの肝はアワビを食べる合間につまむと、さらに濃厚な風味が楽しめる。
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レ・グラヴィエール クローズ・エルミタージュ 2005年 (ジャン=リュック・コロンボ) |
しっかりと潮の香りと旨味を含んだこの料理には、フランス南部のローヌ地方クローズ・エルミタージュ地区で、マルサンヌとルーサンヌという香ばしい風味を持つ品種から造る、柔らかな果実味に爽やかな酸味を兼ね備える白ワインを合わせてみるといい。コクがある料理を味わった口中を、コクがあるワインが洗い流して清めてくれる。
続く3皿目の前菜にも、このワインはなかなか合う。ホワイトアスパラガスを茹でてシブレット(香りがマイルドな極細ネギといったハーブ)を刻んで加えたソースの上に林立させ、パルマ産の生ハムを載せた料理である。
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『ホワイトアスパラガスと生ハムのシブレットソース』 |
出回り始めたばかりのホワイトアスパラガスをかみしめると、ピュアなほろ苦さのある汁が口中にあふれ出す。春の息吹のようなアスパラガスとともに、旨味と獣の香りが濃い生ハムを食べるといっそう印象的だ。また逆に、アスパラガスの風味があるからこそ、生ハムがさらにおいしく食べられるのである。このふたつをつなぐのが、とろりとなめらかなバターソースである。