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車を降りてからのアプローチも楽しい |
黒ゴマのソースに言葉もない
国道から道を一本入るとそこはのどかな田園風景が拡がる。上り坂を進むと右手に赤い看板が見える。意外とわかりやすいではないか、ということでレストランまでの私道をゆっくりと進む。
広い駐車場の先に平屋の日本家屋が見える。「おお、ここがそうか!」車を降りるとシーンとした静寂さの中に鳥の声がかすかに木霊する。すぐにマダムが迎えに来て下さり、店内へ。しかし、すぐに中に入るよりしばし、この緑の風景の中にいたい気になる。アプローチはまるで京都の料亭に来たかのような佇まいで、視界に入るものすべてが純和風。ダイニングは表の風景に面し、昨日からの雨も上がり木々の緑が一段と映える。
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ウエイティングスペースも個室もある |
レセプションの奥に仕込中のシェフの姿が見える。広いキッチンで黙々と鍛錬を積む修行僧のように見えたのだが、その料理は果たしてどんなものか。
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春キャベツがフォアグラと溶け合う |
まずはアミューズというより小さな前菜。フォアグラを春キャベツのテリーヌで固めたもの。小さな鰻や春キャベツも添えられ、周りを彩る胡桃とナッツのソースは非常に個性的ですべての素材の持ち味を束ねていく。そして不思議な後味が残る。それはとても長く残るものだ。
次の前菜は地元のエビを固めたところに黒ゴマのソースをしたためた一品。いや、このソースも初めての経験で、魚介類の出汁と身を細かく刻み、そこにほんのりとバターと黒ゴマで風味と味わいを忍ばせる驚きの料理だ。未だそのソースと味わいが記憶に残る。
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ここ最近では最も印象に残った料理の一つか |
1人で食べていると、いつもの違う角度から料理と向き合うことができる。しかし、これまでの2品は私の想像を大きく超えるもので、でも決して創作フレンチといった軽々しいものではなくて、素材重視、それを引き立てるソース、そこには山奥と言ってはたいへん失礼だが高い熟練技術、そして素材の新しい組合せに思いを馳せる料理人の姿が朧のように今も脳裏に浮かぶ。静謐な料理とはこのことか。