フレンチ/東京のレストラン

ジャック・ボリーさんとの90分談義

日本を代表するフランス料理店ロオジエのシェフを永らく勤め、昨年第一線を退いたジャック・ボリーさん。歩いてきた道程とこれからのことを伺いました。

嶋 啓祐

執筆者:嶋 啓祐

フレンチガイド

フランス
シックな雰囲気漂うボールルーム

フランス文化の継承者

この春にフランス大使館でちょっとしたパーティーがあった。フランス大使公邸は歴史を感じる作りにジャポニズムとモダンさを忍ばせた、シックな空間だ。スロープになっている庭とその下方にはプールがあり、斜面をうまく利用した作りになっている。そしてどの大使館よりパーティーの料理が素晴らしい。さすが美食の国、フランス。

その日は世界的なフレンチプロデュサーであるアラン・デュカスはじめ、日本のフレンチ料理界のキーマンが集り、パーティーは終始賑やかに時を刻んでいた。シャンパーニュの酔いがほのかに回る頃、私のすぐ横にロオジエのシェフを勤めておられたジャック・ボリーさんの姿があった。

ジャック・ボリー。いわゆるグルメでこの方の名前を知らない方はいないだろう。銀座は並木通りに燦然とそびえる名店「ロオジエ」。そのシェフを長年に亘り勤めていた方だ。テレビ番組の情熱大陸で取り上げられたほどの方なので、一般的にも知名度はかなり高いはず。

ボリーさんの持つMOF<Cuisinier>(フランス国家最優秀料理人賞を1982年に受賞)の称号は日本で言うと人間国宝であることを意味する。フランス文化の優れた継承者として高い技術を持つ人々に与えられる称号だ。

素顔のボリーさん(とてもフレンドリーな雰囲気なので、フランス料理界の最優秀料理人賞を持つ方とはいえ、あえてこう呼ばせていただきます。)はとても気さくな方で、私がフランス料理の楽しさを広めるための活動をしている云々といった話を非常に興味深く聞いてくださった。

銀座並木通りに気品よく佇むロオジエはボリーさんが第一線を引いた後も見事にその名声を維持しているレストランであることに異論を唱える人はいないだろう。現在の様子は後日改めてレポートするとして、平日のランチであっても予約が取りずらいことなど、ボリーさんが腕を振るっていた頃となんら変わりはない。

それは何故か。

料理通信の君島編集長はこう語る。
「ロオジエは資生堂が経営しており、長年に亘り文化としてレストランをしっかり作っている」。
単に高級なフランス料理を食べるだけのレストランではないのである。例えばホールにかかっているモダンアートもレストランの経営を単体で考えていたらとても無理な話だ。アール・デコ様式のインテリアを現代風にアレンジして見せている技術も素晴らしい。エレベータや階段の造作も非常に手が込んでいる。螺旋階段は昇りのために、エレベータは2階から降りるためだけのものだ。
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