フレンチ/東京のレストラン

ジャック・ボリーさんとの90分談義(3ページ目)

日本を代表するフランス料理店ロオジエのシェフを永らく勤め、昨年第一線を退いたジャック・ボリーさん。歩いてきた道程とこれからのことを伺いました。

嶋 啓祐

執筆者:嶋 啓祐

フレンチガイド

14歳から料理の世界へ

ボリーさんの故郷ってどんなところだったんですか?

フォアグラ
のどかな風景が広がるペリゴールの町
そうだね、ペリゴール地方の田舎町で育ったんだが、鴨や鵞鳥、鶏や仔牛などの食材がたくさんあった。のんびりとしたいいところだ。祖母が作ってくれたチキンのローストはほんとうに美味しかった。そうそう、仔牛も好きだった。残念ながら日本では仔牛はあまりないんだ。大きく育てないといい値段で売れないからだと思うんだが、フランスでは仔牛は結構流通していて非常に肉質がいいものが多い。日本では松坂牛に代表されるように、柔らかいものを美味しく感じる傾向があるけれど、食感をしっかり感じるという意味ではそれは必ずしもいいことではない。ただし、矛盾はするが松坂牛はもちろんとても素晴らしいけどね。

料理人としてのキャリアをどう積んでいったのですか
14歳の時に地元チュールの小さなレストランに入ったがこれがスタートだ。狭く暑い厨房の中で結構苦労したものだよ。その後大きな転機になったのはパリの三ツ星レストラン、グラン・ヴェフールに入ったことだね。最初はもちろん給料なんかなかった。3年いて最後はソース担当にまでいったが、ここではレイモン・オリヴェから大きな影響を受けたなあ。とにかく一人前になるには10年はかかると思う。最初に見習いとしてじっくり仕事をして基礎的なことを身体で覚えたことが今となってはとてもよかったと思っているよ。

あたり前のことだが基礎は本当に大事だ。例えば、一人の料理人の力量を見るならテリーヌとオニオンスープを作らせるとすぐにわかるさ。ありふれてはいるが、実に美味しい料理だ。シンプルでごまかしが効かない料理であると同時に、安価な素材を手順良く手間隙かけて作らなくてはいけない。基礎がしっかり仕込まれていないとできない料理だ。最近は美味しいテリーヌを食べさせる店が少なくなったような気がするが。それはとても残念なことだ。

ロオジエ
物腰の柔らかさも魅力のひとつか
来日されてから日本のフレンチはどう変わったかと見ていますか。
本当に変わったと思う。もう30年以上経つからね。私が日本に来たのは1973年。(ビストロ・ド・ラ・シテが開店した年)その頃はホテルを除きフランス料理店なんてあまりなかった時代だ。そうだ、西麻布にシェ・フィガロがあってよく行ったものだ。(フィガロは69年開店) あれから30年以上経ったが居酒屋スタイルのビストロが増えてきたことは嬉しいよ。しかしそうはいっても、最近のビストロはサービスは真面目すぎるし、力が入りすぎているところも多いように思えるね。

最近はとにかく中年のおば様たちがとても元気だ。話していて楽しいよね。テレビに良く出ている細木数子さんのような人はとても楽しい。好きですよ、細木さん(笑)。女性のお客様はデザートタイム以降も本当に楽しんでいることがわかります。レストランは楽しむところということを身体で理解しているように思えます。それに比べてと言ってはなんだが、男性はどうも元気がない気がする。もっともっと元気にならないといけないと思うのは私だけだろうか。

ボリーさん、引退するには未だ早いような気がしますが、これからの予定はどうなのでしょうか。現場復帰を待ち望むファンも多いのではないでしょうか。

現場復帰と言っても、僕はもう60歳になってしまった。この年で朝早くからキッチンに入ってずっと仕事をするというのは辛いよ、そんなにいじめないで欲しい(笑)。

デュカス氏のようにプロデュースの世界に入っていくのですか。
彼は非常に偉大な料理人であり、優れた経営者だと思う。しかし、60歳になった僕にはもうできない。あと10年若かったらそうなりたいと思ったかもしれないけどね。

ボリースタイルのビストロなんかやりそうな気がするんですが。
誰かと組んで、ならば可能性はあるかも知れない。でも今は残念ながら何もない。自分がやるやらない関わらず、とにかくビストロはいいよ、ビストロは。暖かい雰囲気があって料理や食の楽しさが全部詰まっているところだからね。しっかりとした味わいがあって、ボリュームがあるところがいい。そんなビストロは日本の居酒屋のようなものかもしれない。もちろんちゃんとした居酒屋ね。もちろん私もよく行きますよ、すぐ近くにいいところが何軒かあるし。
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