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Wiiヒットの秘密 パラダイムシフトとは(2ページ目)

発売と同時に完売品薄状態のWii。そのヒットは任天堂の緻密な戦略によるものでした。そのキーワードとなる言葉がパラダイムシフト。その意味解説し、任天堂の戦略を考察しながらそのビジョンを考えていきます。

田下 広夢

執筆者:田下 広夢

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ゼルダの伝説よりも売れたWiiスポーツ

Wiiスポーツを買う図
Wii発売日の大行列の中、Wiiと一緒にWiiスポーツを買う人は非常に多かったのです
2006年12月2日、実際に発売されたWiiのソフト売上げを見ると、岩田氏の言うパラダイムシフトというものが実際に起きているということを予感させます。

Wiiと同時に発売されるいわゆるロンチタイトルの中で、当初最も期待されていたのはゼルダの伝説トワイライトプリンセス(以下ゼルダ)でした。1986年に発売されたディスクシステムと同時発売されて以来10年に渡ってヒットし続けてきたシリーズであり、前作のゼルダの伝説風のタクトも70万本以上の売上げを出しています。しかし、それを覆したのがWiiスポーツというゲームです。

Wiiスポーツは今までのゲームと比べれば、いわゆるコアユーザーからみるとややボリュームにかけ、シンプルすぎるような作りでした。しかし、売上げは違います。発売初週の販売数はゼルダが14万本、Wiiスポーツが17万本となりWiiスポーツがロンチタイトルの売上げ1位を獲得したのです。その後も差は広がり、年末の時点でゼルダが約30万本、Wiiスポーツは約50万本にも達しています。

ニンテンドーDSでも脳を鍛える大人のDSトレーニングなど、シンプルなゲームが今までゲームをやらなかった人達に受け入れられヒットしました。しかし、ハード発売同時タイトルであるWiiスポーツがゼルダを超える売上げを記録するというのは、ちょっとまた意味合いが違うのです。

Wiiは発売前から評判を呼び、人気がありました。インターネットの予約の多くは数分で締め切られ、店頭予約も開始日に朝から行列ができる店があるほどでした。また、当日発売分も、秋葉原や有楽町の大型量販店では前日深夜に行列が入荷数に達してまさかの前日売り切れとなるお店が出るなど、発売日に手に入れるのは非常に困難でした。もちろんその後現在に至るまで品薄は続き、入荷されれば即品切れという状態が続いています。何が言いたいかといいますと、つまり今Wiiを持っている人達はその熾烈な競争に勝ち抜いたコアユーザーだということです。なんとなく話題になってるから買ってみた、というようなライトユーザーと言われる層の割合は非常に少ないはずなんです。

ですからDSのようにライトユーザーに裾野が広がったからWiiスポーツが売れたというよりは、Wiiのもたらす新しいゲーム体験をコアユーザーが受けいれた格好になるのです。これこそ、今までのゲーム業界にはあり得なかったことで、既成の枠組みに変革が起きた象徴的な現象であり、パラダイムシフトと言えるのかもしれません。しかし、彼らコアユーザー何故、Wiiスポーツを買ったのでしょうか? そこには任天堂の戦略がありました。

コミュニケーションツールとしてのプロモーション

ゼルダよりもWiiスポーツの方が売れるという現象は、ゲーム業界の歴史からみれば驚くべきことですが、実は任天堂が狙っていた戦略からすれば予定通りとも言えます。任天堂は最初から人気シリーズのゼルダではなく、Wiiスポーツの販売を全面に押し出したプロモーションを展開していました。名古屋、大阪、東京の3会場で2006年11月に行われたNintendo World 2006 Wii体験会でも、最も多くの試遊台が用意されたのはゼルダではなくWiiスポーツです。テレビCMもWiiスポーツは最初から5種類のCMが用意され、大きくアピールされていきました。

体験会やテレビCMでアピールされたのは、誰かと一緒に遊ぶ姿です。例えばCMは5種類用意されていますが、そのどれもがWiiスポーツの細かい内容について説明するものではなく、誰とどういう風に楽しむかを再現したものでした。夫婦でゴルフを、親子でボーリングを、あるいは恋人の彼女がボクシングするのを眺めるといった風に、様々なシチュエーションでゲームを誰かと一緒に遊ぶ姿がCMで流れます。体験会でも、多くの人が一緒に来た人と一緒にゲームをしましたし、1人の人でもコンパニオンの方が一緒にゲームを楽しみました。

【関連サイト】
Wii.com JP - CM -

任天堂はこういったプロモーション展開を通して、Wiiをゲーム機でありながら、コミュニケーションツールとしての価値を明確に打ち出しています。そしてもちろん、Wiiそのものにもみんながゲームに触るようになる仕組みが施されているのです。
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