文章: 佐久間 啓輔(All About「ジャズ」旧ガイド)

最も困難な楽器の一つであるトランペット(フリューゲルホーン)を、あたかも口笛を吹くようにコントロールしてしまう男が今回紹介するクラーク・テリー。ビバップの流れを汲みつつも、オリジナリティあふれるジャズイディオムとニュアンスで、他の追従を許さない天才トランペッターである。御歳83歳で現役!その魅力に迫ってみたい!

※ジャケット写真がAmazon.comにリンクしています。


天才トランペッター、クラーク・テリー
トランペットやトロンボーンのような金管楽器は、もともとジャズに向かない楽器なのかもしれない。と言いたくなるほど困難な楽器なのである。金管楽器をモノにするだけでも偉業であるのに、このクラーク・テリーのテクニックは超絶を更に超えている。その証拠にマネするトランペッターは存在しない。
あまりに個性的なその演奏スタイルは、デューク・エリントン楽団在籍時に、どういう演出をしていいのかエリントンを悩ませていたという逸話があるほど。ひたすら我が道をまい進する孤高の芸術家といったところだ。

悩めるトランペッター、クラーク・テリー
いかに天才と言えども、常に最高のコンディションで演奏できたわけではない。ピーク時の演奏があまりに完璧なため、数多くのレコーディングのなかで最高の演奏を見つけるのは難しい。天才トロンボーン奏者ジェイ・ジェイ・ジョンソンが、コンディションの悪い時、演奏活動をやめてしまうという伝説があったが、クラーク・テリーは…多少のコンディションの悪さは、明るさでカバーしていたようだ。

天才ボーカリスト、クラーク・テリー
この人は歌がうまい。楽器演奏者で歌もうたってしまうミュージシャンは少なくないが、この人はその中でも最高峰であろう。スキャットに関しては、ボーカリストのなかにも、これだけ歌える人はなかなかいない。この歌心がトランペットにもにじみ出ている事は言うまでもない。

面倒見の良いトランペッター、クラーク・テリー
マイルス・デイビスの自叙伝によると、薬漬けでボロボロになったマイルスを町で拾ったクラーク・テリー、「好きなだけうちに居ればいいんだよ。冷蔵庫の中のものも好きなだけお食べ。」…。なんという美談。それに対してマイルスが行ったことは、テリー家にあった楽器を全て質に入れてしまったとさ。

ここでクラーク・テリーのお勧めアルバムをお一つ。スパーピアニスト、オスカー・ピーターソンのトリオに、クラーク・テリーが参加してしまった、最高にゴキゲンであり、かつ崇高な『トリオ・プラス・ワン』というアルバムである。上のジャケット写真の右側も何を隠そうオスカー・ピーターソンさんであり、クラーク・テリーとのデュエットアルバムであるが、『トリオ・プラス・ワン』の方が存分にジャズの持つスイング感、グルーブ感を楽しむことが出来るであろう。

クラーク・テリーとオスカー・ピーターソンに共通する点は、スイングするフレーズをしこたまストックしていること。盛り上がっても勢いで押し切ることなく、常にクールにスイングしているのである。そこが普通のジャズメンとかけ離れている部分であり、このアルバムで充分に堪能できる。


右の写真は今年発売になった、セント・ルチア・ジャズ・フェスティバルの模様を収録したDVD。すっかり枯れてしまっているという意見もあるが、80歳にしてなお元気にスイングするお姿を拝見できる。ジャズの楽しみ方をおしえてくれるような演奏を皆さんも是非ご体験あれ!

 

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