文章: 佐久間 啓輔(All About「ジャズ」旧ガイド)

モダン・ジャズの名脇役、ピアニストのウィントン・ケリーの魅力はその泥臭さ。洗練されたモダンジャズの世界に、ブルージーな味付けをしてくれる。今回は、短い生涯で、地味ながらもモダンジャズ界を支えた、このウィントン・ケリーにスポットを当てたい。

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ウィントン・ケリーは、1931年のニューヨーク生まれ(ジャマイカ生まれという説もあるが…)。39歳でこの世を去るまで、数々のモダンジャズの名盤に、その名を連ねている。代表的なのは、やはりマイルス・デイビスの作品であろう。レッド・ガーランドやビル・エバンスに続いて、マイルスバンドの黄金時代を支えた。

ウィントン・ケリーの演奏のどこが泥臭いのかと言えば、音使いもさることながら、そのリズム感からくる。一言で言ってしまえばハネているのである。8分音符がテッケテッケしている。これはジャズを志す者にとって、やってはいけない行為の一つにあたる。特に日本人がやってしまうと「おサルのカゴヤ」になってしまうのである。

しかしウィントン・ケリーの魅力はそこにあるのだ。同じくハネているミュージシャンとして、モダンジャズの代表的トロンボーン奏者カーティス・フラー、セロニアス・モンクのバンドで活躍したテナーサックスのチャーリー・ラウズあたりが挙げられる。彼等の演奏、最初は抵抗を感じるかもしれないが、噛めば噛むほど味が出てくる。

ウィントン・ケリーは、同年代に活躍していたピアニスト、例えばビル・エバンスやオスカー・ピーターソン、ホレス・シルバーのように、自分のバンドで次々に新しい世界を切り開いていくタイプではない。自分のアルバムでも、ただ聴いているだけでは、誰がリーダーなのかわからないほど、その主張は地味である。しかしそこがやはり魅力なのであろう。

お勧めアルバムは『ケリー・グレート』。ピアニストが目立つ最良の方法はピアノトリオでの演奏であろうが、ウィントン・ケリーはそれをさほど望んではいなかった。管楽器やギターが入ったカルテットやクインテットを好んだようだ。『ケリー・グレート』は、トランペットのリー・モーガン、テナーサックスのウェイン・ショーターをフロントに配し、ベースのポール・チェンバース、ドラムのフィリー・ジョー・ジョーンズのサポートを得た極上のハードバップ作品。

アート・ブレイキーバンドのフロントとマイルスバンドのリズム隊が合体した編成ののこの作品は、鬼の居ぬ間に何とやらで、強烈なアルバムコンセプトが無いものの、のびのびとしたセッションが楽しめるアルバムだ。気心の知れたミュージシャンたちのなかで、ウィントン・ケリーのリラックスしたピアノが心地よく響く。


ワタクシ個人的に、このウィントン・ケリーを好きになった経緯としては、やはりマイルスバンドからである。マイルスやコルトレーンが圧倒的なアドリブを展開させた後に、「我関せず」とでも言っているかのようにマイペースにアドリブしているその姿勢に感動したのだ。唯一であろう彼の演奏する映像は、マイルスの「ソー・ホワット」での姿。

マイルスのドキュメントものの映像で、目にされた方も少なくないと思うが、そこにある姿にこそウィントン・ケリーのジャズに対する姿勢がうかがえる。強烈な個性をはなつマイルスやコルトレーンの視線をあびながら、淡々と演奏する、ウィントン・ケリートリオの真髄を感じることの出来る貴重な映像だ。

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