それは昨年の夏のことだった。毎年開催される文具の国際展示会「ISOT2006」に取材に行ったときのこと。会場の中で、ひときわ異彩を放っているブースがあった。黒を基調にしたシックなデザインのブースに、同じく落ち着いた黒の商品群がゆとりを持って並べられていた。その雰囲気に吸い寄せられるようにブースへと足を踏みいれ、いつくかの商品を手にとってみた。どれもとてもシンプルなデザインでありながらしっかりとした主張が感じられるものばかりだった。私はてっきりヨーロッパあたりの文具メーカーかと思っていたのだが、実は日本の文具メーカーだった。
それが、今回ご紹介するカール事務器だ。カール事務器と言うと、裁断機や鉛筆削り、穴あけパンチなど、どちらかというとデザイン性よりも機能性に重点をおいたメーカーという印象があったので、この変容ぶりにはちょっと驚かされた。
そのカール事務器がその時発表していたデザインステーショナリー シリーズ「ディケイド」と「文具良道」をご紹介したい。
紙を切るその技術力は折り紙つき
デザインシリーズをご紹介する前に、カール事務器の生い立ちについて触れておこうと思う。カール事務器は1915年(昭和4年)に文具メーカーとして創業した。一番はじめに製造したのは「両用状差し」というものだ。その名前は聞いたことがなくとも、実物をみればきっとご存知の方も多いはず。レストランのレジにおいてある伝票をさすためのものだ。発売当初のデザインのまま、今でも販売されているまさにロングセラー商品なのだ。
ロングセラーの両用状差し 577円 | 台座には2匹のヤギがいる。紙を食べるという意味なのだろうか。。。 |
この両用状差しをかわきりに、裁断機をはじめ穴あけパンチ、鉛筆削りなど、「切る」ということにこだわった商品を数多く作り出している。その「切る」というこだわりはこんなことからも伺い知れる。
こうした技術力を中心にしたカール事務器がなぜ、デザインステーショナリーの分野に進出することになったのか、同社の取締役営業本部長 徳田氏にお聞きしてみた。
「弊社では長年、自社の技術力を活かした様々な商品を開発し、販売をしてきました。しかし、様々な経済環境の中で、メーカーとして精魂込めてつくったものが、我々が考えるよりも安く色々なところで売られてしまうという状況がありました。そこで、これまでの技術面だけでなく、市場で適正に受け入れられるよう、デザインにもこだわったものを作ろう考え、この2つのシリーズを立ち上げることにしました。」
やはり、劇的な変化の裏にはこうした背景があったのだ。
>>次のページでは、デザイン文具シリーズ「ディケイド」をご紹介