レザーソールとは! 心地よい革靴底
一口で「レザーソール」と申しても、実はその「厚み」には様々なものがあります。そしてそれが、靴自体の「使い方」を明確に定義してくれます。
悪天候の日には確かにちょっと厄介なものの、自然な着地感を一度味わってしまうと、やはり長年主役を張り続けているのが当然と実感できる底、それがレザーソールです。
靴の種類やメーカーの設計思想、それに履く人の体格や履きグセによって、相性の違いがアッパーの革より顕著に出てしまうのもまた楽しい訳です。個人的な例を再び申し上げると、とあるマッケイ製法のローファーをオールソール交換した際、たまたま付いて来たレザーソールも面白かった! 日本ではあまり知られていないメキシコのタンナー(アウトソール用の牛革で世界最大のシェアを持っているのが、実はここ)のものでしたが、カエリが笑ってしまう位に良い割になかなか擦り減らず、価格もリーズナブルだったので結果大オーライだったのです。とは言え、この底をグッドイヤー・ウェルテッド製法の靴に付けると同じ印象を得られるかどうかは未知数でして、靴本体とソールの関係は、言わば自動車本体とタイヤの相性と同様のものと考えていただければ解り易いかと思います。
その心地良さをより堪能する為には、もう少し色々知っておいた方が良いかも? ですので今回は、様々なものが存在するレザーソールの「厚み」について解説してみる事に致しました。
革靴のソールの特徴:基本中の基本である、シングルソール!
レザーソールの原点であるシングルソール。足アタリの良さを追求したいなら、選ぶべきはこれでしょう。
レザーソールの厚みを語る上で最初に登場すべきは、勿論「シングルソール」と呼ばれる仕様でしょう。文字通りアウトソール一枚のみで構成されるシンプルなもので、紳士靴の場合はそれ自体に4.5~5mm位の厚みがあるものを用いるのが一般的です(底付けにウェルトを用いた靴の場合は、もう1~2mm厚く見えてしまう場合もあります)。他のものに比べ歩行時のカエリが一番素直で、足馴染みも速いのが特徴です。
婦人靴ではアウトソールを3mm程度の薄さでこの仕様にするのが専らですが、紳士靴でも優美で繊細な印象を与えたいもの、例えばオペラパンプスやアルバートスリッパでは同様の薄さでシングルソールにします。一方アメリカ製のワークブーツ等では、6mm以上の厚さがある革をアウトソールに採用し、武骨な印象を与えるだけでなく耐久性も高めています(後述するダブルソール仕様となる場合も多いです)。両者の対比でお解りの通り、何もシングルソール仕様に限った訳ではありませんが、底の厚みが靴そのものの性格を明確に定義してしまう事は、覚えておいて損はありませんよ。
革靴のソールの特徴:頑丈な革底と言えば、ダブルソール!
ダブルソールにすると、分厚くなるだけ頑丈さも増します。ただしその分重さも増してしまいます。
アウトソールの上に、「ミッドソール」と呼ばれる革底をもう一枚底面全体に敷き詰めた仕様を、「ダブルソール」と言います。シングル・ダブルと、まるでウィスキーの飲み方みたい…… 要はこちらは二枚構成な訳です。ミッドソールには通常、アウトソールよりも若干薄い3mm位の牛革が用いられますが、靴によっては5mm前後のものや、ゴムやスポンジ等牛革以外のものを用いる場合もあります。
厚みが増す分、シングルソールに比べ耐久性、特に耐水性は大幅に向上するものの、その分重量は増し、足馴染みが遅く歩行時のカエリも悪いのは仕方ない事かも知れません。また、これは意外と知られていませんが、しなやかさに劣るが故に爪先面の「摩耗」や「削れ」は、シングルソールよりむしろ早く起こりがちです。とは言え、仕事で一日中歩き回らなくてはいけないような人や体格の良い人の靴、それに野山を軽く散策する為の靴には極めて理に適ったソールである事には間違いありません。
革靴のソールの特徴:「前半分だけ」の、ハーフミッドソール!
ハーフミッドソールとは前半分だけをダブルソールとしたもの。我が国では何故か「スペードソール」とも呼ばれています。
アウトソールの上に「ミッドソール」を設けるものの、全面にではなく土踏まず部より前にのみ敷き詰めた仕様を、「ハーフミッドソール」と言います。ダブルソールの短所であるカエリの悪さと重さを改善しつつ、長所である耐久性は最大限に残されている技アリのソールです。また側面から見ると、土踏まず部より前と後との「段差」が、何となく活動的な印象を与えてくれるのも特徴と言えるでしょう。
主にイギリスの靴に時折見られる仕様で、そのどれもが街中と言うより屋外での活動を原点に持つ靴ばかりですので、その辺りを汲んで履いてあげたい感もあります。因みにこのソール、Edward Greenの代表的なその種の靴に付く事例が多かったからか、我が国ではその靴名から「ドーバーソール」とも時折呼ばれますが(まるで舌平目みたい!)、いやそれよりも「スペードソール」の名称の方が遥かにお馴染みでしょう。英語で"Spade”は「鋤」若しくは「踏み鍬」の意味ですので、後者はその形状に由来するのかもしれませんが、本来これは全く別の意匠を指すものでして、どこでどう交錯してしまったんだろう?
これが本来の「スペードソール」仕様。アメリカの靴にたまに見られるもので、ボールジョイント部のコバを意識的に尖らせた仕様です。 |
他にもありますが……
ドレスシューズでは滅多に見ないですが、ミッドソールを二段重ねた「トリプルソール」も存在します。
いや、なにもミッドソールは一枚だけしか入れられない、と言うものではありません。これを二段重ねしアウトソールを含めて三枚構成とした「トリプルソール」仕様も存在します。ドレスシューズの領域のものではフランスのJ.M.Westonの大定番品にこれを備えた靴があり、上段のミッドソールを、下段のミッドソールとアウトソールとを出し縫いするウェルト(細革)的にも用いるので、出し縫いが2段に表れる非常にユニークな構造を持つものです。カントリーシューズが起源の靴ですから当然の選択な訳で、滅茶苦茶丈夫で意外とカエリも悪くないけれど…… 流石に重さを意識してしまう時も出てまいります。ここまで来ると矢張りワークブーツ向けの意匠なのかも知れません。
と言う事で革底の「厚み」とその仕様について、色々と見てまいりました。これも履き手の体格や歩きグセ、それに靴の用途次第で、ベストな選択は当然ながら変化し得るものである事をご理解いただければ嬉しいです。
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