エラスティックシューズとは?便利で履きやすい!
ストレートチップスタイルの黒のサイドエラスティックシューズです。この種の靴はスーツを多用するビジネスマン生活をしていると、確かにさまざまな場面で重宝する存在です。 |
エラスティックシューズ1:見せ方が肝心な、サイドエラスティック
サイドエラスティックシューズは、エラスティックをトップラインの踝の脇周りに配置した靴。 |
その構造上どうしてもエラスティックが露出するため、それを逆手に取ったデザインになりがちなのと同時に、類似したパターンを描くことが可能なためか、スリッポンではあるもののこの種の靴は、内羽根式の紐靴と似た凛とした印象に映ることも多いです。バリバリのブリティッシュスタイルのスーツとかだと、不思議と外羽根式の紐靴よりも似合ってしまう場合が多々ありますし、例えば黒のスムースレザーを用いたキャップトウスタイルのこのモデルなら、冠婚葬祭にだって十分使えます。実際、より紐靴っぽく見せるためでしょうか、甲に鳩目や靴紐のようなデザインをイミテーションで配したものも存在し、それらはイギリスでは「レイジーマン(Lazy Man)」などと呼ばれているようです(いかにものネーミング!)。
日本へもこの種の靴は比較的早い時期に紹介されたようですが、あくまでビジネス用の実用靴の範疇であり、履く年齢層がかなり上の地味で目立たない時期がかなり長く続きました。「お洒落で便利な靴」として我が国で注目が集まりだすようになったのは、小生の記憶では1990年代中頃から。具体的にはセレクトショップのBEAMSが、イギリスのジョージ・クレバリー(George Cleverley)ブランドの既製靴を扱い始め、この靴を同店の誂え靴と同様に看板メニューとして採り上げた頃からだと記憶しています。クレバリーのモデルでこの種の靴の印象が良くなった方、小生以外でも多いのでは?
エラスティックシューズ2:隠し方が肝心な、センターエラスティック
センターエラスティックシューズは、エラスティックをトップラインの先端、つまり甲の最上部に配置した靴。 |
甲の最上部にあるエラスティックを完全に覆い隠すべく、アッパーは甲からつま先にかけて、丁度エプロンを垂らしたような裁断となるのが一般的です。なのでデザインもフルブローグやUチップのような曲線的なものとの相性が良く、余分な線を付けないプレーントウのようなものも暫し見受けられます。またモンクストラップ のようなバックルとストラップを甲にイミテーションで配して、表情を引き締めようとしたものも多いです。
一方キャップトウやセミブローグのようなデザインは、この種の靴ではあまり見ることができません。それもあってかセンターエラスティックシューズは外羽根式の紐靴的なカジュアルな印象に映り、その意味では立ち位置はあくまでスリッポン。本来はスーツ姿より、ジャケット&トラウザーズ姿の方が相応しい靴です。「サイド」が落ち着いて見えて、「センター」がカジュアルに感じるのは、丁度テーラードジャケットの後部に付けられるヴェントと同じかな?
エラスティックシューズが履かれてきたのには理由がある!
サイドエラスティックシューズのエラスティック部を拡大して撮ってみました。綺麗に蛇腹で覆われたもの、敢えて大胆に露出したものなど、メーカーによって意匠は様々です。 |
もうお気付きの読者の方もいらっしゃるでしょうが、日本ではこの種の靴の中でもセンターエラスティックシューズに付いては、ごくごく普通のビジネスマンにとってはそれこそイヤと思うほど見慣れた存在ですよね。そもそも日本には、エラスティックシューズを受け入れやすい素地が幾つも備わっていると思います。もはや今日では変化しつつあるけれど、かつての日本人の足と言えば圧倒的に「甲高幅広」な、典型的な下駄足。ともすれば不格好に見えやすいそんな足にも寛容な履き心地で、かつ着用時にデザインが破綻をきたしにくい靴は? と問われると、紐靴以上に確かにそれなのです。
また、住環境はもちろんのこと、一部の職場環境も含めて日本は西洋とは明らかに異なる「靴脱ぎ文化」であり、脱ぎ履きの容易なこの種の靴が生理的に歓迎されない筈ないのです。お座敷での飲み会や室内でスリッパに履き替えなければならない小さな事務所に訪問の時なんて、実際エラスティックシューズを用いてみると本当に重宝!
だから、小生がどうも同意しかねるのは、モカシン縫いが施されたセンターエラスティックシューズを「ギョーザ靴」と称して、旧来のサラリーマンを象徴する存在として揶揄すること。得てしてファッションにある程度以上詳しい方に多い発想で、これらの靴がちょっと時代遅れのデザインのものばかりなのは、まあ、事実ですが…… そのような発想は、上記のような「具体的事情」を無視しているような気がするからです。
むしろその観点で考えると、センターエラスティックシューズこそ「今一番新たなデザインを創造し甲斐のある靴」と言えるかもしれません。ある程度以上の年齢の方で足元のおしゃれにも気を遣える男性の層は、徐々にではありますが確実に広がっています。靴としての性能を維持し脱ぎ履きが楽なだけでなく、そのような方々を「これなら軽薄にも老けても見えない!」と納得させることができるデザインを持ったこの種の靴が、もう少し多く開発されることを、特に日本国内のメーカーに期待したいところです。
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