次に中2階へ上がったら、まずは右手へ。「カメオの間」「宝石の間」と名づけられた小部屋には、絶対に見逃せないすばらしい作品があるのです。そのひとつが「コジモ1世のカメオ」。宝石彫刻の名工ジョヴァンニ・アントニオ・デ・ロッシが、5年の歳月をかけて完成させた大作です。18.5×16.5cmの大きな多層アゲートには、トスカーナ大公コジモ1世(1519~1574)と妻エレオノーラ、夫妻の子供たちが刻まれていますが、部分的に欠けており、中央にはまっていたメダイヨンも失われています。しかし、イタリアが生んだ芸術、カメオという宝石彫刻の分野が最盛期を迎えた16世紀ならではの、力強く誇りに満ちた表現は、今なお見る人を圧倒する力を持っています。(画像:コジモ1世のカメオ≫)
また、ジャスパーやラピスラズリ、大理石を惜しげなくはめ込んだ「コジモ2世の奉納画」も必ず見ておきたいもののひとつ。大公コジモ2世(1590~1621)が病の平癒を祈って作らせたという、半貴石でできた絵です。描かれているのは、ひざまずいたコジモが慈悲を請い願っているシーンですが、験なく、彼は31才の若さで死にました。
もう一枚の半貴石画、遠近法を用いて奥行き感たっぷりに描いた「シニョリーア広場の眺め」も、石の色づかいがとても鮮やか。実際の広場には、ダヴィデやペルセウスの彫刻が並んでいますが、16世紀末のこの作品にも、遠景にそれらが小さく描きこまれています。フィレンツェならではのご当地アートですね。
(銀器博物館ガイドブックより) |
「シニョリーア広場の眺め」1599年、18×25.5cm。 |
衰えゆくメディチ家の最後を看取ったのは、プファルツ選帝侯に嫁いだアンナ・マリア・ルイーザ(1667~1743)ですが、彼女が好んだルネッサンス期のジュエリーは「宝石の間」の壁に10数点並んでいます。形のゆがんだ大粒の天然真珠をエナメル細工で派手に飾ったデザインが多く、半人半魚や海馬などの幻獣をモチーフにしているので、何やらおどろおどろしい感じ。ここで使われているようなゆがんだ真珠、つまりバロック・パールは、後に「バロック様式」の語源になりました。(画像:人魚のペンダント≫)
(銀器博物館ガイドブックより) |
さて、見どころはまだまだたくさんある銀器博物館ですが、ここでちょっと横道に。1階の象牙の間と中2階の通路には、ゴージャスな小箱が並んでいますが、何の入れ物かおわかりになるでしょうか。
これらは、金銀宝石で飾りたてた聖遺物の容器。聖遺物とは、キリスト教の聖者たちにゆかりのある品(主に骨、歯、毛髪、ミイラなど)のことで、中世の人々は、聖者が奇跡を起こしてくれることを願って、これらをガラス張りの小箱に奉安しておがんだのです。現代人には理解しづらい感覚ですが、霊験あらたかな聖遺物を持つ教会は信徒の寄進も増えるとあって、人気のある聖者の遺骸から体の一部をむしって盗んでくるようなことさえ、その昔は行われていたとか。
しかし、容器そのものは工芸品として見ると実に可憐で美しいものばかり。聖遺物容器の優品は、同じフィレンツェの《メディチ家礼拝堂》旧聖具室でもたっぷり見ることができます。もちろん、今でもちゃんと“中味”入りです。(画像≫)
■銀器博物館
Museo degli Argenti
住所:Piazza Pitti 1
電話:055-2388709
開館時間:8:30~13:50、第1・3・5月曜と第2・4日曜休
入場料:2ユーロ
アクセス:サンタ・マリア・ノヴェッラ駅より徒歩20分
(問い合わせはフィレンツェ・ムゼイへ。電話:055-294883、www.firenzemusei.it)
上記のデータは、2002年8月に取材した際のものです。
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