自動車保険の「人身傷害保険」「搭乗者傷害保険」の違い、補償の選び方
「人身傷害保険」は、自動車保険の自由化が始まってから開発された補償で、現在では国内損保はもちろん通信販売のダイレクト系損保、共済などでも付帯されるのが一般的になりました。しかし昔から自動車保険には「搭乗者傷害保険」という補償があります。どちらも傷害保険という言葉は入っていて何がどう違うのか分からない人も多いようです。人身傷害保険と搭乗者傷害保険の違いと基本的な補償内容について、その比較や選び方について解説します。
<目次>
※損害保険会社によって「人身傷害保険」「人身傷害補償保険」などと多少呼び方が違うことがありますが、この記事では「人身傷害保険」と記載します。自動車保険の補償は3つの軸で構成されている
人身傷害保険の話をする前に、自動車保険の補償について確認しておきましょう。自動車保険の補償は大きく分類すると以下の3つの補償を軸に構成されています。- 賠償責任の補償 : 対人賠償責任保険、対物賠償責任保険
- 傷害の補償 : 搭乗者傷害保険、人身傷害保険、無保険車傷害保険、自損事故保険
- 契約車両の補償 : 車両保険
傷害補償に自損事故や無保険車傷害保険というものがありますが、一般的に自分の意思で付けたり外したりする補償ではありません。ここでは気にしないでください。
賠償責任保険と傷害保険の違い
自動車に乗って停車しているところを後方から追突された場合、通常は追突してきた相手に100%落ち度がありますから、相手から100%損害賠償してもらう形になります。ケガについては、相手方の「自賠責保険」や「対人賠償責任保険」から治療費や慰謝料、休業損害などが支払われます。これは加害者から受ける損害賠償です。同時に自分の自動車保険に「搭乗者傷害保険」などが付帯されていれば、ここから相手からの損害賠償とは別に傷害保険金を受け取ることができます。
相手から損害賠償してもらうのに、なぜ自分の保険を使う必要があるのかと考える方もいるでしょうが、搭乗者傷害保険だけを請求する分には自分の自動車保険の割引に何ら影響しませんからむしろ使った方が得です。
このケースで、もし生命保険や医療保険に加入していて保障対象になる場合、保険金の請求をするはずです。搭乗者傷害保険の請求も同じことです。相手からの損害賠償と自分で加入している傷害保険、医療保険の請求はまったく別なものです。
自分の保険の請求をしたから、相手からもらう損害賠償金が減額されるわけではありません。まずは前提としてこの違いを知っておきましょう。
自動車保険の搭乗者傷害保険とは?
搭乗者傷害保険は、自動車保険の契約をしている車両に乗っている運転者や同乗者がケガをしたときの補償です。死亡・後遺障害、入院、手術、通院などについて契約している車両に搭乗しているときのケガの保険です。契約で定められた金額を「定額」で支払われることになり、死亡保険金が1000万円で設定されていれば、搭乗中の事故で死亡することがあればその金額が支払われます。
医療部分については「日数払(1日入院1万円、通院5000円など)」と「一時金払」の2種類がありました。過去形なのは、個人契約では日数払はほぼなくなっていて一時金支払いが中心だからです。
搭乗者傷害保険の取り扱いをしていない保険も今は多く、特約などで一時金を上乗せ的に足すケースが中心です。実務的には今はどの損保も自動車保険の傷害保険は、人身傷害保険が主流になっています。
自動車保険の人身傷害保険とは?
人身傷害保険は、自動車保険に加入している契約車両に搭乗中、事故で死亡・後遺障害・ケガをした場合、「過失割合に関わらず」契約金額の範囲内で「損害額の全額が相手との示談を待たず」に支払われます。搭乗者傷害保険が「定額」で支払うのに対して、人身傷害保険は「実損」で支払うことが大きな違いです。
第三者との自動車事故でお互いに過失(落ち度)がある場合、本来相手から損害賠償される部分と自己の負担になる部分がありますが、これに関係なく自分の人身傷害保険から先に全額支払うことができます。
例)自分の損害額5000万円 (過失割合 自分30% 相手70%)
このときお互いの過失(落ち度)により相手からの損害賠償は3500万円(70%)、自分の負担部分は1500万円(30%)となります。
交通事故では相手と過失割合などで揉めることは珍しくありません。示談にならないと相手からの損害賠償金3500万円は支払われませんし、相手と揉めている事案では示談まで数年かかることもありえます。これではいつ相手から3500万円が支払われるかどうかも分かりません。
このとき人身傷害保険で仮に5000万円の補償があれば、相手との示談が済んでいなくても、人身傷害保険から5000万円を受け取ることができるのです。
相手の賠償責任保険の部分も、自分の人身傷害保険で「先払い」でカバーされるとイメージすると多少分かりやすいでしょう。相手から損害賠償を受ける分は、重複して支払われることはないということです。相手との示談が済めば、自分が契約している損保会社が、過失に関係なく先に支払った分は相手に請求して回収します。
人身傷害保険と搭乗者傷害保険の違いとは?
補償内容はそれぞれ解説しましたが、一言で人身傷害保険と搭乗者傷害保険の違いを改めてまとめると以下のとおりです。- 搭乗者傷害保険:補償は定額払い(実際の損害より、多いことも少ないこともある)
- 人身傷害保険 :補償は実損払い(実際の損害を支払う)
搭乗者傷害保険に死亡1000万円加入、実際に死亡事故が発生すれば相手に関係なく、契約どおりに定額で1000万円を支払います。人身傷害保険は実損払いですから、仮に契約金額5000万円で加入していれば、相手との過失割合は後にして、5000万円を上限に実際の損害が支払われます。
人身傷害保険の契約金額はいくら必要?
人身傷害の契約金額(保険金額)は、一般的に最低3000万円程度から無制限まで設定可能です。あまり金額が少ないと、相手からの損害賠償も含めて先行して支払ってもらう際に足りなくなることがあります。例えば死亡事故や重度の後遺障害などの場合だとありえるでしょう。保険料の負担の関係もあるので3000~5000万円程度が比較的多いようですが、年齢や職業によって金額の算定が変わるので、それを考慮して加入する金額を相談して設定してください。
自動車保険で人身傷害保険だけの請求は等級ダウンしない
自動車保険では事故で保険金の支払いがあると、翌年に等級ダウンして保険料が高くなります。1等級(一番高い)から20等級(一番安い)あり、保険を使えば通常は3等級ダウンします。事故によっては1等級ダウンのみ、あるいはノーカウント事故というものもあります。人身傷害保険だけを請求する場合はノーカウント事故の扱いなので、等級に影響することはありません。ちなみに搭乗者傷害保険についても同様です。
詳しくは「自動車保険の割引率が決まるノンフリート等級制度とは」を参考にしてください。
人身傷害保険は補償範囲の異なるプランがある
人身傷害保険は、補償範囲を選ぶことができます。補償範囲によって保険料が変わってきますが、検討する余地がある補償です。言い回しは損保会社によって異なります。- 契約車両に搭乗しているときのみ補償
- 契約車両に搭乗中や歩行中、自転車搭乗中の自動車事故など
ごく一部の損保ですが補償範囲の広いものだと、上記の2つに加えて、自転車の単独事故や自動車以外の乗り物(航空機や船舶、電車、乳母車、エレベーターなど)でのケガも対象になっているケースもあります。これら全般を指して「交通乗用具」という言葉を使いますが、自転車などによく乗る人(家族含む)、交通事故全般が心配ならかなり使えますので検討してみてください。
その際、一般的に人身傷害保険の補償が適用される人は次の人です。
- 本人(記名被保険者という。以下、本人)
- 本人の配偶者
- 本人またはその配偶者の同居の親族
- 本人またはその配偶者の別居の未婚の子(婚姻歴がない) など
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