家を売却しようとするとき、それが「いくらで売れるのか」が分からなければ先に進むことができません。まずは、いくつかの不動産業者に査定の依頼をすることからスタートし、その結果をもとに「いくらで売り出すのか」「どの業者に任せるのか」を決めることになります。
今回は、不動産業者から家の価格査定を受けるときの注意点をみていくことにしましょう。
どの業者の査定も同じになることが原則でも……
不動産の価格査定は、さまざまなデータの組み合わせによる
もし可能であるなら、「そろそろ売却を」と考え出した頃から依頼先候補となる不動産業者のピックアップ、選別を始めておくとよいでしょう。早めに意識することで、どの業者がどのような広告や営業活動をしているのかを知る機会も得られます。
価格査定を依頼する不動産業者は、実際に売却の依頼をする可能性を念頭におきながら3~5社程度に絞り込めばよいでしょう。
これが1~2社だと提示された価格の妥当性を比較検討するためには情報不足になりがちですし、逆に多過ぎるとその後の営業攻勢にさらされて煩わしいことになりかねないほか、売却の依頼をどこか1社に絞るときにも厄介です。
なお、同じ不動産業者の別々の支店に査定を依頼するのはあまり意味がないでしょう。もし、同じ社内で競わせて高い査定価格を引き出したとしても、それと実際に売れる価格は別に考えなければなりません。
物件価格の査定は、同じ市場データ(成約事例や市場動向など)をもとに、多くの業者は同じ価格査定マニュアル(公益財団法人不動産流通推進センター発行)などを使い、同じ物件を対象として評価をすることになります。
したがって、どの不動産業者に査定依頼をしても原則的にはだいたい似通った価格が示されるはずであり、とくに同じ建物内での売買事例が多いマンションなら大きな差は出ないでしょう。
土地や一戸建て住宅では、査定をする不動産業者によっていくらかの違いが生じることも多いのですが、市場データの分析方法(売買事例の取捨選択など)が異なっていたり、市場ニーズの読みが違っていたりするためです。
ただし、売買事例が極めて少ないエリアでは、不動産業者による査定価格の違いが大きめになるかもしれません。
また、対象物件に何らかのマイナス要因やリスク要因がある場合には、それをどう判断するかによって査定価格の違いが大きくなることもあります。数値的な処理ができない要因をどう判断するのかで、査定価格に影響が出る場合もあるでしょう。
たとえば、隣地の建物が今にも倒れかかってきそうなほど老朽化しているなどの影響があれば、なかなか売りづらい状況になりかねませんが、それを価格にどう反映するのかは査定担当者の感覚次第の面も否めません。
高額の査定には要注意
数社から査定価格が提示されたとき、そのうちの1社だけが飛び抜けて高い価格だった場合には注意が必要です。たとえば4社に査定を依頼し、A社が3,200万円、B社が3,180万円、C社が3,250万円だったのに対して、D社が3,600万円だったような場合です。このときD社に頼めば高く売れるというわけではありません。D社の査定が間違っているか、市場のニーズを理解していないか、真剣に調べていないか、あるいは媒介契約を取ることが目的と化してしまっているかのいずれかでしょう。
とくに、営業社員数が多い不動産業者で経験の浅い人などが担当だった場合、本来の目的である「売却の成功」を度外視して、「売却の依頼を受けること」(媒介契約を取ること)を優先してしまうケースがあります。
媒介契約を取って自分の担当物件を持つことで、仕事をしているフリができ、上司からの圧力が弱まるのです。営業面では厳しい会社も多い業界のため、弊害が生じやすいかもしれません。
いずれにしても、高く売り出せばそのぶん高く売れるわけではなく、逆に中古市場から目を向けられずに「さらし物件」としていつまでも売れ残ったり、「まわし物件」として他の物件を売るための材料に使われたりするだけです。
上の例でのD社は、売却依頼先の候補からすぐに外したほうが賢明でしょう。
ただし、他社よりも高く売るルートやノウハウをもっている可能性も否定できません。そのような不動産業者の場合には、なぜ他社と違うのかをしっかりと聞いてみることも大切です。
マイナス要因はきちんと伝えること
物件の売却にあたり、買主(購入希望者)に伝えなければならないマイナス要因については、これを隠すことなく不動産業者に伝えるべきです。とくに、第三者である不動産業者の調査などではなかなか判明しない隣地とのトラブルや境界問題、生活上の問題、物件内での事件や事故の問題など、売主でしか分からないことを隠していれば、「売主の不告知」としてその後の契約トラブルに発展しかねません。
「これを話したら査定価格が下がるのではないか」などと懸念しても、マイナス要因を隠したうえで出された査定価格は、幻想の価格でしかないでしょう。
ただし、それがプライバシーにかかわる問題で、具体的なことは直接の関係者(実際に売却を依頼する不動産業者および実際の買主)以外に極力知られたくないという場合もあります。
そのようなときには、とりあえず仮の査定で依頼をする不動産業者を決めてから、真実を話して正式な査定価格を出し直してもらうという方法も考えられます。
査定の根拠と販売方針をしっかりと聞く
あまり不自然ではない誤差の範囲内で査定価格を提示してきた不動産業者からは、なぜその価格なのかといった説明を受けるようにします。それと同時に、物件をどのように販売していくのか(広告の種類や内容、営業活動、売り出し方法など)や、価格の上乗せをして売り出す場合にはその売り出し価格と実際の成約見込み価格などについて、十分に分かるまで話を聞くようにしましょう。
数社からほとんど同じ話の繰り返しになるかもしれませんが、「あぁ、それは○○社から聞いたからいいや」などと話を端折ることなく、各社の説明内容とともに「どのように説明するのか」をしっかりとチェックしてください。
また、各社からは売却した後の税金のことや、とくに買換えのときはその資金計画の立てかたや段取りについても話を聞くとよいでしょう。このあたりの説明の仕方で、営業担当者の力量の違いを見極めたり、業者の良し悪しを判断する材料になったりすることもあります。
また、買換えのときには「一定期間内に売れなかったときにはどうするのか」についても各社から聞いてみましょう。買い取り保証の有無、買い取る場合の価格などについてもしっかりと確認をするようにします。
なお、上記の高額査定の場合とは逆に、1社だけが他よりもだいぶ低い査定価格を提示してきたときには、念のためその価格の根拠をよく聞くべきです。その業者だけが掴んでいる何らかの情報や要因があるのかもしれません。
物件の価格査定は無料です
「無料査定!」をやたらに強調したチラシを配布している不動産業者もありますが、売却にかかる物件価格の査定は、原則としてどの不動産業者も無料です。ただし、たとえば東京の不動産業者に対して、「札幌の土地の現地を見て査定してくれ」というような依頼をすれば、交通費の実費分を請求されることもあるでしょう。
また、「成約時の媒介手数料から○○万円キャッシュバック」のような形で、査定を促すキャンペーンをしている例もありますが、かえってそれ以上の媒介手数料の値引き交渉がしづらくなるかもしれません。あまり目先のことに惑わされずに、慎重に相手を選ぶことも大切です。
オンライン査定は?
最近ではインターネットを使い、指定された条件を入力するだけで(かつ匿名で)査定を受けられるサイトも増えてきています。「だいたいこれくらいの価格なら売れそうだ」という、おおよそのラインを把握するためにはたいへん便利です。売買事例の多いマンションで特別な減価要因のない部屋なら、ほぼオンラインによる査定価格のままで売り出すことができるケースもあるでしょう。
しかし、土地や一戸建て住宅の場合にはなかなかそうもいきません。マンションに比べて物件ごとの個別要因が大きいほか、実際に現地を見て調べたうえでなければ価格を判断できない場合も多いためです。
また、オンライン査定の際に氏名や住所、マンション名や部屋番号の入力が必須のときは一定の注意も欠かせません。査定後に激しい影響攻勢にさらされるケースもあるようです。
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