退職後の健康保険、選択肢は4つ
退職すると、これまで加入していた健康保険から外れることになります。日本は「国民皆保険」――国民すべてが何らかの公的医療保険に加入する制度――ですので、退職後も何らかの公的医療保険に加入しなければいけません。その選択肢には次の4つがあります。- 国民健康保険の被保険者
- 家族の組合健保あるいは協会けんぽ(以下、健康保険)の被扶養者
- 任意継続被保険者
- 特例退職被保険者制度の被保険者
風邪や腰痛などで病院にかかる回数がだんだん増えてきた……。65歳を過ぎると病気だけなくケガも増え、医療費がじりじりと増えていく。公的医療制度の選択はとても重要です! 定年退職後の定年後の健康保険はどれを選べば?
<定年退職後の健康保険 目次>
定年退職後の健康保険(1)国民健康保険……前年の所得が算出基準
国民健康保険は、各市町村と都道府県が共同で運営する健康保険制度です。保険料(税)(以下、保険料)は、(1)医療保険分、(2)後期高齢者支援金分、(3)介護保険分からなっており、年齢によって下記のように負担します。- 40歳未満の人……(1)+(2)
- 40歳~64歳の人……(1)+(2)+(3)
- 65歳~74歳の人……(1)+(2)(介護保険分は年金から天引きになる)
(1)(2)(3)は、それぞれ地方自治体が定めた料率や金額を用いて、所得割=「前年の1月~12月の所得×料率」、資産割=「固定資産税額×料率」、均等割=「世帯の加入者数」、平等割=「世帯単位」、の4項目について計算します。計算対象となる項目は、賦課方式によって次のように異なります。
- 4方式:所得割、資産割、均等割、平等割
- 3方式:所得割、均等割、平等割
- 2方式:所得割、均等割
保険料には最高上限額があります。国が定める上限額(医療保険分63万円、後期高齢者支援金分19万円、介護保険分17万円)以下に収まるように地方自治体が決めています。
このように国民健康保険料は、賦課方式や保険料計算に用いる料率や金額、最高上限額が地方自治体によって異なるので、所得は同じなのに転居したら保険料が上がった(下がった)、ということになります。
65歳の同い年夫婦の国民健康保険料を試算してみましょう(夫のA氏は12月末に退職し、現在は年金等で年収346万円。妻は専業主婦。固定資産税10万円と仮定)。
- 4方式:T市26万8900円、I市23万8900円
- 3方式:F市29万7400円、K市28万7560円
- 2方式:Y市27万3260円、M市20万1400円
国民健康保険には、所得が一定以下の世帯に対して保険料を7割・5割・2割軽減する制度があります。軽減されるのは均等割額と平等割額です。収入が年金(年金額:夫200万円、妻78万円)のみの世帯の令和3年度保険料を前出の6地方自治体で試算すると、5割軽減により7万~10万円程度になります。
定年退職後の健康保険(2)家族の健康保険の被扶養者……厳しい条件あり
家族に健康保険に加入している人がいれば、その人の被扶養者になるという道があります。そうすれば、保険料の負担はゼロ! いいですね。 しかし、簡単に健康保険の被扶養者にはなれません。健康保険の被扶養者として認定されるには、次の加入条件を満たさなければならないのです。- 年収が130万円未満(対象者が60歳以上、またはおおむね障害厚生年金を受給する程度の障害者の場合は、180万円未満)
- 同居では被保険者の年収の半分未満、別居は被保険者からの援助による収入額より少ないこと
- 健康保険法で定めている被扶養者の範囲内であること
定年退職後の健康保険(3)任意継続被保険者……継続手続きは退職後20日以内
退職前後の慌ただしい時期に公的医療保険のことまで手がまわらない、という人にお奨めするのが「任意継続被保険者」です。これは「退職日の翌日から最長で2年間、退職前の会社の健康保険に継続加入することができる」という制度です。この手続きを行えば、退職後も働いていた時とほぼ同じ保障を健康保険から受けることができます。任意継続被保険者になる条件は、以下のように比較的緩やかです。
- 健康保険の被保険者期間が継続して2カ月以上あること
- 資格喪失日(退職日の翌日)から20日以内に申請手続きをすること
それでは払えないかも、と不安を感じるかもしれませんが、ご安心ください。組合健保の保険料は、「退職時」と「健康保険組合の全被保険者の平均標準報酬月額」のどちらか低いほうの額に保険料率をかけて算定されます。
例えば、R健康保険組合の平均標準報酬月額は32万円、令和3年度の保険料は月額2万5600円(介護保険料含まず)です。前出のA氏は平均標準報酬月額28万円ですので、保険料は月額2万2400円になります。
協会けんぽ(=全国健康保険協会)の任継続被保険者の保険料は、都道府県によって異なります。協会けんぽの任継続被保険者の標準報酬月額の上限は30万円です。保険料は原則2年間同じで、前納する場合には割引があります。参考までに、令和3年4月以降の標準報酬月額28万円の人の保険料月額(介護保険料含まず)をいくつかご紹介します。
- 北海道 2万9260円
- 福島県 3万1716円
- 東京都 2万7552円
- 神奈川県 2万7972円
- 長野県 2万7188円
- 愛知県 2万7748円
- 大阪府 2万8812円
- 香川県 2万8784円
- 鳥取県 2万7916円
- 福岡県 2万8616円
保険料は1年前納、半年前納、毎月払いから選択できる健康保険が多いようです。毎月納付の場合は、期日までに保険料を納付しなければ、資格を喪失します。復活させることはできませんので注意しましょう。
任意継続被保険者は、保険料が抑えめなだけでなく、他にもメリットが少なくありません。例えば、協会けんぽにはありませんが、「人間ドック受診無料」「常備薬を無料配布」「1カ月の医療費負担上限額を低額に設定」のように、健康保険組合が独自に行っているさまざまなサービスを受けることができます。こちらのメリットのほうが実は大きいのかもしれません。
定年退職後の健康保険(4)特例退職被保険者制度……制度があればラッキー?
特例退職被保険者制度とは、老齢厚生年金の受給権者で健康保険組合に20年(40歳以降は10~15年、健康保険組合によって期間は異なる)以上加入していた人が退職し、後期高齢者医療制度に加入するまでの間、在職中の健康保険に加入できる制度。厚生労働大臣の認可を受けた健康保険組合(特定健康保険組合等)が運営します。この制度を設けているのは、パナソニック、富士フイルムグループ、東芝、慶應義塾、東京ガス、日立、キリンビール、ホンダ、民間放送、全日本空輸などがあります。巷ではこの制度を利用できる退職者はラッキー、と言われています。
加入手続きは退職後3カ月以内に行います。年金証書が手元に届いていない人は、国民健康保険や任意継続被保険者などにいったん加入し、年金証書が届いた翌日から3カ月以内に手続きをします。いったん加入すると、次の3つの理由以外での脱退はできませんので、注意が必要です。
- 本人が死亡
- 再就職して他の健康保険の被保険者になる
- 75歳になり後期高齢者医療制度に加入
- パナソニック 2万5200円
- 三菱UFJ証券グループ 2万3140円
- JAL 2万3520円
- KDDI 3万260円
定年退職後の健康保険、保険料のシミュレーションで決める
一般に、定年退職後1年間は、国民健康保険に加入するより任意継続被保険者を選択するほうが保険料の負担が少ない、といわれます。しかし、退職時期と年収によっては国民健康保険料の方が低額になり、2年目以降も世帯所得によっては、軽減措置によりかなり低額になる可能性があります。前出のA氏の保険料は、下記のように国民健康保険に加入するのが最も安くなりました。<健康保険制度 翌年度の保険料/翌翌年度の保険料/合計>
- 国民健康保険 25万8618円/8万6444円(5割軽減)/34万5062円
- 任意継続被保険者(協会けんぽ) 35万9640円/35万9640円/71万9280円
- 特例退職被保険者制度(日揮) 23万9040円/23万9040円/47万8080円
*協会けんぽに関しては神奈川県の情報をもとに計算した
*特例退職被保険者制度の翌翌年度保険料は「見直しなし」とした
*介護保険料は年金から天引きされるので含まない
退職前から病院との縁が深い人や病弱な人には、医療費の自己負担分が重要です。保険料だけでなく、国民健康保険の高額療養費と任意継続・特例退職被保険者制度の医療費の付加給付金を比較する必要があります。
リタイアを決めたら早めに企業や地方自治体のホームページで保険料の見込み額を調べましょう。そうすることで世帯にとって有利な健康保険制度を見つけることができます。
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