世界文化遺産には必ずある「想い」が込められている。たとえば世界の神秘に対する驚き、人々を導きたいという正義感、正しく生きたいという強い願い、美に対するあくなき探究心……。

なかには、ふたりの男女が永遠の愛を封じ込めた世界遺産なんてものもある。今回は800を超える世界遺産の中から、そんな愛の世界遺産の封印を解いてみたい。長年寄り添ったふたりで、これから生涯を共にするあの人と、こんな場所で永遠の愛を誓ってみてはいかがだろう。
※伝説には諸説あります。別説やさらに深い話もたくさんあるので、ぜひ調べてみてください。

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永遠の純愛「タージ・マハル」(インド)&愛の街「麗江」(中国)……P.1
「ローマの休日」&「ロミオとジュリエット」の舞台(イタリア)……P.2
古の愛と美「アブ・シンベル」(エジプト)&大自然「セレゲンティ」(タンザニア)……P.3

永遠の純愛が込められたタージ・マハルで愛を語る(インド)

タージ・マハル
どこから見ても美しい純白のタージ・マハル。気温40度でもひんやりしているほど白大理石の純度は高い。※写真はクリックで拡大
男15歳、女12歳でふたりは出会い、見詰めあったその瞬間に恋に落ち、それ以来男は幽閉された部屋の一室で妻の墓を眺めながら死を迎えるまで、その恋心を失うことはなかったという。

男の名前はシャー・ジャハーン。女の名前はムムターズ・マハル。ふたりは結婚生活18年の間、戦争のときも、外交交渉の間も離れることなく共に暮らし、14人の子供をもうけた。シャー・ジャハーンはハーレムを囲うことも第二婦人をめとることもなく、妻の死後も再婚することなく純粋な恋を貫いた。

妻亡き後、シャー・ジャハーンはその純白の想いを白大理石に託し、政治力のすべてを投入して妻の廟=タージ・マハルを完成させる。伝説では、その後黒大理石で自身の廟をヤムナ川の対岸に建築し、その間を1本の橋で結ぶ予定だったという。イスラム教のいわゆる審判の日、復活してその橋を渡り、ふたたびムムターズを抱きしめるその瞬間のために。

世界遺産の中で、「愛の遺産」と言えばタージ・マハルを置いて他にはない。完璧なシンメトリーとまっ白な大理石、宝石を散りばめた墓室。世界でもっとも美しい建築物は、たったひとりの男の、世界でもっとも純粋な愛によって生み出された。愛を語るのにこれ以上の場所はない。

その愛は死をも超えて。「愛の町」麗江旧市街(中国)

麗江
麗江旧市街のナシ族のお婆さん。青い民族衣装がナシ族の特徴。※写真はクリックで拡大
現在、世界で象形文字を使っている民族はただひとつ。チベットの玄関口にあたる麗江(リージャン)近辺に暮らすナシ族で、その文字をトンパ文字という。

一般に男系の家父長制社会では、妻の子供が自分との子であることを確信するために、女性を家に置き、外に出さない閉鎖的な社会になるという。ナシ族は古くから生命をつなぐ女性の力を崇拝してきた母系社会の民族で、自由恋愛が広く認められていた。

ところが漢民族がこの地を支配すると、漢化政策のもとでトンパ文字の使用が禁止され、生活習慣の漢民族化を強要される。やがて自由恋愛が否定されると、愛を何よりも重んじたナシ族の恋人たちは、天国でも地獄でもない「第三国」で共に暮らすため、ふたりそろって命を絶ったという。

恋の話はトンパ文字に込められて封印された。やがて死んでいった恋人たちは精霊となり、ナシ族の伝説として語り継がれることになる。ジェームス・ヒルトンの小説『失われた地平線』に出てくる永遠の平和の都、桃源郷=シャングリラは麗江ではないかとも言われている。自由に暮らす彼らの幸福な人生は、「蟻ほど勤勉に働き、蝶のように楽しく暮らす」と称された。

死をも乗り越える愛の町、麗江。チベットに抱かれた美しい桃源郷はふたりの絆を強く結び付ける。



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