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もう1冊、フランス語の辞書を選ぶなら(2ページ目)

新学期にあわせてフランス語辞書を徹底比較!辞書特集第2弾は、「個性溢れる傍らに置いておきたい辞書」のご紹介です。

越智 三起子

執筆者:越智 三起子

フランス語ガイド

フランス語職人のこだわりが見える:新スタンダード仏和辞典

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端正な訳文が魅力の『新スタンダード仏和辞典』
収録語数65,000語でいわゆる「中辞典」のレベルに入る大修館書店の『新スタンダード仏和辞典』。圧倒的語数を誇りながら、本体価格(3,800円)もサイズも記事前編で紹介した学習辞典並みの手軽さで使えるのが魅力の一冊です。

大修館書店発行の学習辞典には、革装版もある『ジュネス仏和辞典』がありますが、今回のテーマは「個性溢れる傍らに置いておきたい辞書」ですので、あえて『新スタンダード仏和辞典』の方をご紹介しましょう。

1987年以後改訂版が出ていないので、その点を問題視する声は多いのですが、この『新スタンダード仏和辞典』の最大の魅力は、前出の『ラルース仏和』の対極にあるともいえる辞書としての「スタンダード」加減。いいかえれば、ある種の「レトロ感」にあります。 発音のカタカナ表記はなく、2色刷り辞書に慣れた方なら、「白黒テレビ~!」という印象を持ちそうな地味な紙面。とはいえ、調べた語に赤でアンダーラインをひき、自分のための2色刷り辞書を形づくっていく楽しみは、この「白・黒」紙面でしか味わえないものです。また、趣ある活字印刷のフォントが美しい。革装版もあるので、こだわり派のあなたにはおススメです。 400点以上あるイラストも、言葉で説明されただけでは想像しにくい服装や建築物などが選ばれていて、イラストとしてのきちんとした存在理由を保っています。このイラストと巻末にある男女の名や各聖人の日のリストだけでも、読者はフランス文化の世界へ誘われることでしょう。異国の世界を旅しているような気分にさせてくれるのがこの辞書の特徴です。

辞書そのものがまるで文学作品

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学習辞典として人気の『ジュネス仏和辞典』。

「学生の頃は本を読み急いで、辞書をゆっくりひく暇がなかった。いま、むしろ言葉そのものを楽しんで『新スタンダード仏和辞典』をひいている。と、しだいにのめりこむようになる。例文の訳がとてもいい。品格がある。」(大江健三郎)

上記の引用は、『新スタンダード』の帯にある大江健三郎氏のコメントからの抜粋ですが、この「品格ある例文」というのがまさに本書の最大の魅力といえます。文学が好きで日本語にもこだわりを持つあなたには、涙ものの本書となるでしょう。フランス語だけでなく、失われつつある美しい日本語が学べる辞書。

例えば、これまでの比較対象語であったvoirから一つ引用してみると、「Ne vous disputez pas, voyons.(これこれ、喧嘩はおやめ)」といった具合。「やめなさい!」という命令形特有の殺伐さはなく、言葉の裏に愛情が感じられる訳語となっています。まるで、やさしいおじいちゃんに怒られているような感じ。全ての例文に関して、こうした「古き良き日本語の美しさ」がちりばめられています。

ちなみに、「試合などを見る」という意味のvoirの訳語は、「見物する」。適切な日本語で微妙な意味のニュアンスを伝えようとする努力が随所にうかがえます。

どんどん進化する辞書の傍らに是非とも置いておきたい「お宝」のような一冊。過去と未来に想いを馳せつつ、言葉に対する真摯で愛情溢れる姿勢をも学ぶことができるはずです。

【引用:『新スタンダード仏和辞典』, 大修館書店

今回の辞書特集記事は、Podcast番組Chocolatとの共同企画第5弾。この記事に関する音声は、4月21日発行のPodcastでお聞きになれます。Chocolatがとりあげたフランス版 Wikipédiaの内容とあわせてお楽しみください。

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