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アントワネットが『下妻』に嫉妬するワケ(3ページ目)

革命記念日の嫌われ王妃マリー・アントワネット。そんな王妃が嫉妬する?日本のお姫様文化の変遷を「ベルばら」、「下妻物語」、「ロリィタ」をキーワードに分析いたしましょう。

越智 三起子

執筆者:越智 三起子

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21世紀の『ベルばら』!?『下妻物語』

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フランスでも公開された『下妻物語』
まず最初に右にある画像を数秒眺めてみてください。革命記念日のちょうど一ヶ月前にくしくもフランスで公開された中島哲也監督の映画『下妻物語』(Kamikaze girls)の画像です。いかがでしょうか?『ベルばら』ファンの皆様の叱責を一身に浴びそうですが、そのいでたちは完璧にOscar とAntoinetteという気がします。

白馬のようにmoto(モト/バイク)にまたがるYanki(gangs de jeunes japonais/日本の若者ギャング)イチゴの口癖は、「悪いけど負ける気がしねーぜ!」。フランス衛兵隊のベルサイユ常駐部隊長Oscarの心意気を下品にすればその根っこもまた同じ(!?)ように聞こえます。

一方「comme des poupées de porcelaine, avec de jolis rubans et de la dentelle partout(至る所にかわいいリボンとレースがついた磁器のお人形のように)」着飾る Lolita桃子の口癖は、「できれば私は、ロココ時代のおフランスに生まれたかった」。この桃子が好きなものを映画『Kamikaze girls』のフランス語公式サイトからいくつかピックアップしてみましょう。

  • le Chateau de Versailles(ヴェルサイユ宮殿)

  • les chansons françaises romantiques(ロマンチックなフランス歌曲)

  • la broderie(刺繍)

  • les bonbons(キャンディー)

  • la mode Rococo(ロココのスタイル)


  • Rococoという言葉は、フランス語のrocaille(ロカイユ/小石→石や貝殻などをセメントでかためた庭園装飾)が語源とされており、微妙で優雅な曲線の変化をその特徴とします。基本的には18世紀のフランスで流行した装飾様式を指すのですが、人間に例えて、実直でシンプルな精神を「まっすぐ」とするならば、このゴージャスかつ病んでいるいるようにも思える美しさは、その前時代の文化baroque(バロック/歪んだ真珠)が発展し、よりいっそう「ゆがんだ」ものとしてイメージすることもできるでしょう。そして、このla mode Rococoも革命を機に衰退していきます。

    進化した姫たち:ロリィタの登場

    chausseures
    今や少女のおもちゃにも!ロリィタご用達ドデカ靴
    ところが衰退してしまったはずのla mode Rococoは、21世紀の日本においてもっともっと「ゆがんだ」形で「ロリィタ」として再生されました。なぜ今ロリィタなのかという問いは、なぜ今「ロココ」なのか?という問いにも還元されることでしょう。単に、「流行は繰り返す」という風にとらえることもできますが、この時代に完全に実用性を無視したスタイルというのは、やはり現実世界からの逃避もしくは一般社会の拒絶とみなす方が適当かもしれません。

    革命時代にあったAntoinetteの華美と民衆の苦しみのギャップは、そのまま現代の日本社会とロリィタ少女とのギャップにつながってくる感じもします。ところで、このロリィタファッションとかつてのお姫様ファッションには、決定的な違いがあるのですがお気づきでしょうか?

    それは、あの小さすぎるAntoinetteの靴と対比すれば簡単にわかるロリィタの靴。かわいらしさは共通するにしても、華奢さ繊細さという点では、まさに対極に位置します。それでは、問題をもう一つ。あれほどまでに実用性を無視しているロリィタファッションの中で、その分厚い靴だけが唯一実用に適するものとはなんでしょうか?

    それは、なんといっても「蹴り」です。『下妻物語』で、白馬ならぬスクーターにのって現れ、イチゴを救うのはドレスが汚れて怒った桃子。現代の姫たちはすでに戦闘モード。革命時代に、自分の首を求めてやってきた民衆を前にしたAntoinetteがあの靴をはいてくるりと向きを変え、ベルサイユ宮殿に向かって「われ、いちびっとったら ほんま、いてまうぞ、こらっ~」と暴れ出したら、歴史はどうなっていたのでしょうか?

    革命記念日を前にして、今私たちが手にしている自由とお姫様文化についてちょっと考えてみるのはいかがでしょう。「できれば私は21世紀のおジャポ~ンに生まれたかった……」と考えているのは案外Antoinetteの方かもしれませんね。

    【引用サイト】
  • 『Marie Antoinette』フランス語公式サイト
  • allocine.com:映画『Marie Antoinette』に関する雑誌『Elle』の批評が掲載されています。
  • Forums de l'Association Tsubasa:AFP通信の記事『Marie-Antoinette fait se pâmer les Japonaises』の全文が見られます。

  • 『Kamikaze girls』フランス語公式サイト


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