糸魚川駅前に立つ奴奈川姫像。手にしているのはもちろんヒスイ |
ヒスイを守った古代の姫君
古代、糸魚川周辺を治めていたのは「奴奈川姫(ぬなかわひめ)」という女性でした。奴奈川姫は賢く美しいと評判で、『古事記』には出雲を治めていた大国主命(おおくにぬしのみこと)が、わざわざ糸魚川を訪れて求婚したと書かれています。
「沼名河(ぬなかわ)の底なる玉
求めて得し玉かも 拾ひて得し玉かも
惜(あたら)しき君が老ゆらく惜しも」 『万葉集』巻13
上の歌はオオクニヌシの求愛の歌。
ふたりは愛でたく結ばれて、健御名方命(たけみなかたのみこと)という男の子を儲けました。健御名方命はそう、信州・諏訪大社の守り神です。
ちなみに、出雲において銅鐸と一緒に出土したヒスイが、糸魚川で産出されたものの成分と一致したそうです。
夫婦むつまじく、親子仲良くといいたいところですが、大国主命は国を天照大神に譲り、
健御名方命は大和朝廷との戦いに敗れ、諏訪から出ることを許されなかったといいます。
妻であり、母であった奴奈川姫は静かに糸魚川でヒスイを守り続けたようですが、大和朝廷の台頭とともに青銅器など黄金色に輝くもの(青銅は作りたては金色なんです)に高貴なる色と希少価値を奪われ、糸魚川のヒスイは彼女のその後の人生が不明なように、まったく歴史の闇に消え去ってしまうのです。
冬の糸魚川の名物はタラ汁。白身の上品な味わいにトロトロの白子がネギ風味の味噌汁の中に溶け込んで、体も温かに。詳しくは次ページで |
そのヒスイが再び、発見されるのはなんと昭和初期。
1500年もの間、日本人は日本にはヒスイは産出しないと信じていたのです。
なぜ、ヒスイは忘れ去られてしまったのでしょう。
支配者の交代、大陸文化の流入など。それだけではなかなか説明できないのですが、これもまた、古代史のロマンなのかもしれません。
■奴奈川姫の伝説(糸魚川市役所)
■参考図書
神々の流竄
奴奈川姫の夫、大国主命や出雲神話の神々の正体に迫る、推理小説よりおもしろい古代史ロマンを読み解く一冊。
次ページではいよいよ、ヒスイ探しの舞台をご紹介します。