飲み物に気をつけて
薬物混入ドリンク? |
裕二は天井を見上げるようにして記憶をたどった。確かに酒での眠気とは違う、何か吸い込まれるような、体が沈みこむような、耐え難い眠気だった。何度もテーブルに突っ伏した。腕を引っ張られるようにして起こされた覚えがある。あの酔い方は普通じゃなかった。最近、酒の量が増えて、深酔いすることが多くなってはいたが、体が普段より重く感じた記憶があった。今となっては分からないが、きっとそうなのだろう。
「クレジットカードは自分で出したの?」
「酒を飲んだのだから当然、支払うものだという認識はあったから、自分で財布からカードを出したのだと思う」
「あ~あ、自分から進んで大金を差し出していたわけか」
「こんな大金を喜んで出すほどオレも能天気じゃないと思うんだけど」
「十分、能天気だと思うけど(笑)。暗い店内でよく見えなかった。もしかしたら、見えていたとしても、『170,000円』という数字を、勝手に『1,700円』とか『17,000円』と思い込んでいたのかもしれないね。あるいは、数字は書かれていなかったのかも」
※能天気=軽薄でむこうみずであること。のんきでばかげていること。また、そのさまや、そのような人。(大辞泉より)
裕二は覚えていなかった。
「いやあ、5万、12万とかあるから、本当は17万だけど2回に分けただけで、トータルで17万かと思ったり、間違えたんだと思ったりしたんだけど」
「一度に限度額一杯にではなく、小分けにして少しずつの金額を何度もやったほうが目立たないということなのかも。カード会社のチェックに引っかからないように。それに間違えたのだとしたら、その用紙を破棄したことを確認しなくちゃ」
「そうか……」
人はヤバイ状況になると少しでも希望的観測で物事を考えようとする。だが、いつだって、事態は最悪の結果になるのだ。
「実は朝一で、カード会社に電話したんだ。そしたら、数十分ごとに落とされているらしい」
「え~? カード会社に電話しちゃったんだ。それじゃあ、もう認めたってことになっちゃうかも。今から、警察に届け出るつもりは?」
「めんどくさいよ」
「じゃあ、引き落とされるのを待つしかないね。悔しいだろうけど」
「悔しいよぉ~」
「それにしても、気づいた段階で警察に行ったほうがよかったかもしれない。どう考えたってまともな金額じゃないんだから」
「う、ん」
「それにもしかしたら、何かヤクを飲まされていたかもしれなかったから、尿検査もしてもらえばよかったかも」
「うーん」
「カードの限度額は? 多分、年齢的にも収入的にもかなりの金額では?」
→限度額を引き下げる