話すと楽になる
安い居酒屋で |
そして日本の警察署のぼったくり対策のページなどもあった。「前後不覚になるまで飲むな」「クレジットカードから目を離すな」「料金表示を確認するように」など、いちいち納得はするものの、いずれも被害に遭ってしまった後では遅いのだと、ため息をつくしかなかった。だが、誰かに訴えたかった。もう金を取り戻すことは無理でも、自分の愚かさを非難されるだけであっても、誰かに聞いてもらいたい。
一人だけ、話を聞いてもらえそうな人を思い出した。すぐさま、メールを打った。「ぼったくりに遭ってしまって…。誰にも言えなくて苦しいんですけど相談にのってもらえませんか?」わりとすぐに返事が来た。「相談といっても何もできないと思いますが、話を聞くだけなら」話を聞いてもらえるだけで十分だ。
「はい。何も手は打てないとわかっているのです。暴力や脅迫はないし、ものすごく高い店だったということのような気が。ただ話を聞いてほしいだけです」そうして、その日の夜、8時に都心で会う約束をした。もちろん、被害に遭った地域ではない。相手の都合のいい場所に自分から出向いた。会うのは1~2年ぶりかもしれない。
「安い店にしましょう」
サラリーマンの多い街で安い店も多い。ありふれた居酒屋のチェーン店に入ることにした。あんな被害に遭った翌日なのに、やはり酒を飲むことになって、飲めないかと思ったが身体は酒を欲していた。アルコールが口をなめらかにした。覚えている限りのことを話すとなんだか気が楽になった。
誰かが自分のしでかしたことを知ってくれるというのは助かる。話しただけで、話を聞いてもらっただけで、なんだかたいしたことじゃなかったような気がしてきた。それだけでなく、自分が気づかなかったことも指摘された。
「酒をさんざん飲んでいたから、トイレに何度も立ったでしょう?」
「もちろん」
「じゃ、きっとその間、もちろん、自分のお酒は置いたままだったろうから、隣に座った外国人の女が何か薬を入れることはたやすかったはず」
「クスリ?」
裕二は不安げな目を向けた。
→飲み物に気をつけて
→→限度額を引き下げる