[あらすじ]カラオケをするつもりで出かけた先はゴージャスな店。ほとんど泥酔してクレジットカードを使ったところ、翌朝、とんでもないことに気づいた裕二。相談相手からの指摘に深く反省することに。
誰にも話せない…
血の気が引く |
確かに、クレジットカードを出したことは覚えている。だが、いくら酔っていても、そんな金額にOKするわけがない。それでも明細書があるということは自分が了解したのだろうか? サインをしたわけではないが、今は暗証番号を押せばサイン不要なのだ。暗証番号を押した記憶はある。酔っていたのに間違えなかったなんて、そんなところだけしっかりしていたのも悔しい。
ほとんど眠ってしまうような状態だったと思う。しかし、暗証番号を押す機械を持ってこられたのだろう。押したような記憶がある。いや、待て。機械だったのだろうか? ただの電卓のようなものだったか? あるいは、口頭で暗証番号を言ったのだろうか? 記憶があいまいで、他所でカードを利用したときの記憶とごっちゃになっているのかもしれない。思い出そうとしたが頭が痛くなるだけでハッキリと思い出せない。
だが、こうして利用明細書がある以上は、口座から自動的に支払われてしまうだろう。60万円近い金額は不景気の今どき、あり得ない数字だ。家族が数ヶ月暮らせる。どうしたらいいだろう? どうすべきか。いずれにしても、この事態は、いわゆる「ぼったくり」だ。自分がぼったくり被害に遭うなんて、考えたこともなかった。しかし、目の前には信じがたい金額の明細書がある。
警察に届け出るか? いや、届け出たところでどうなるものでもないだろう。妻に話すことはできない。無理だ。幸い、家計費は夫である自分がすべて管理している。クレジットカードの明細書についても妻は関知していない。ウソをつくというわけではないが、黙っていたい。知らずに済むのなら無理に知らせる必要はないだろう。知らせたところでいいことは何もない。
裕二は妻の用意した朝食の味も分からないまま、呆然と家を出た。会社に行っても書類の文字が頭に入らない。誰かに声をかけられても一瞬わけが分からず、間の抜けた調子でいぶかしがられた。仕事になんてなりはしない。といって、こんなバカな話、愚かな話を相談できるような同僚はいない。話したところで、「高い授業料だったな」と言うのがせいぜいだろう。そして内緒の話のつもりがいつの間にか誰もが知っている……そんな恥ずかしい事態は避けたい。
→話すと楽になる
→→飲み物に気をつけて
→→→限度額を引き下げる