危険を教える
女の子のほうが成長が早い |
「君は子どもに携帯は危ないから持たせるなと言うかと思っていたよ」
「危ない危ないって言うだけじゃなくて、危ないことを理解してもらって正しく使えばいいんじゃないの? だってこれだけ普及してるんだから持ちたいというのを絶対に禁止するというのも難しいわよ。子ども同士で持っていない子だけのけ者にされてもイジメにつながるかもしれないし」
「最近、中学生までは持たせないようにしようとか法律を作るとか何とか話があったよな。うちも絶対に中学生では持たせないぞ」
「まあ、いくつで持つにしてもちゃんと使い方や危険については知らせないとね。それは親の役目だと思うわ」
「危ない事件が色々あっただろ。女の子は特に危ないからな。うちは翔太が男の子だから、まだあれだけど」
「まあね。女の子のほうが成長するのも早いし」
麻季子は春彦が姪のことを心配しているのだとよく分かった。春彦は4歳年上の姉の綾子とは仲がよく、甥の浩樹も姪の紗希もよくかわいがっている。不思議なことに綾子よりも、その夫よりも、紗希は春彦に似ているともよくいわれる。それもあり、また娘がいないせいか、紗希のことは気になるのだろう。ダイニングテーブルで食後のお茶を二人で飲むことにしてゆっくりと緑茶をいれた。
「実は会社のヤツの娘さんが夏休みに入ってトラブルがあったようでね。家出したらしいんだが。ま、それもあってちょうど気になるからさ。ちょっと紗希ちゃんに話をしてみるか。姉さんが何て言ってるか」
春彦がそう言ってリビングルームを見ると、紗希が翔太に携帯電話を見せている。麻季子は夫の会社の人のトラブルというのが気になったが、先に翔太に声をかけた。
「ちょっと翔太。そろそろお風呂入りなさい」
「うーん。ねえ、パパ、ボクにもケータイ買ってくれる?」
「ダメだよ。高校生になるまではダメ」
「だって、紗希姉ちゃんは中学生でも持ってるのに」
「家によって事情は違うの。うちはダメ」
「え~」
「とにかくお風呂」
「は~い」
翔太は素直に風呂に入ることにした。紗希はまた携帯電話に集中している。メール着信音が鳴り、画面に見入っている。
「紗希ちゃん、携帯電話ばかりやってるとよくないぞ」
「何が?」
「何がって、ママからちゃんと色々と聞いてないの?」
「聞いてるよ。ヘンなサイトは見ちゃいけないとか。大丈夫だよ。今はね、友だちからのメールを見てただけ」
「ちょっと紗希ちゃん、おじさんたちと話をしようか」
「うーん、ちょっと待ってね。……はい」
携帯電話を手に持ってダイニングテーブルのところに紗希がやってきた。麻季子はティーカップに白湯を入れて紗希にすすめた。
「携帯電話のこと、ママはなんて言ってたの?」
「あのね、ヘンなサイトは見ちゃダメだって。でも、なんとかソフトが入ってるから大丈夫だろうって」
「フィルタリングソフトだな。でも、プロフとかは見るんだろ?」
「だって友だちもみんなやってるもん」
「そのみんなやってるってのも問題だな。プロフも怖いんだよ」
「えー? なんで?」
「つい先日も、プロフの中で友だちのことを悪く書いた子が書かれた子に殺されちゃった事件があったんだ」
「ウソっ! どして?」
紗希が驚いて春彦を見た。
※プロフ=プロフィールの略で、ネット上に自己紹介文を作成したり掲載したりするサービスやサイトのこと。「性別」「血液型」「好きなもの」などの情報や顔の画像などを載せる。ブログよりも気軽に参加できることから中高生などの間で「名刺」代わりとして流行している。
→p.4……・写真を送る少女