口は災いの元
口は災いの元… |
「飯田。今後は人と話すときはよく注意するんだな。口は災いの元だよ」
「はい。これまでは安易に酒の話とかしていましたが、もう懲りました。今後は十分気をつけて話しますし、女性とは2人だけになりません」
「うん。そうだね。まあ、俺の考えじゃ、彼女は君を気に入ったんだろう。だが、誘いに乗ってこなかったので、かわいさ余って憎さ100倍ってことじゃないか。逆恨みだろう」
「そんな。。」
「彼女は、美人過ぎてかえって男が近寄らないのかもしれないね。それにあのキツイ性格じゃあな。君もモテるタイプだからね。色男は言葉には気をつけろってことだろ。セクハラに取られかねないからな。あ、色男ってのもセクハラか? ハハハ」
利之は笑うに笑えなかった。普通に仕事の話をしていただけのはずなのに、どこでどうなったのかまったく人は見た目では判断できないということだ。今後はとにかく気をつけようと思った。女性とは2人だけで話さないこと、言葉には気をつけなくてはならない。うかつに酒を誘うなんてことはやめておこう。言葉の一つひとつを吟味して、慎重に話をしよう。
社交辞令のつもりが誤解を招くことは避けなければならない。降って湧いたような事件だったが、利之は大きな勉強をしたとつくづく感じていた。社交辞令でもどんなトラブルになるか分からない。ストーカー被害や刃傷沙汰、セクハラ訴訟など何があるか知れないのだ。プロジェクトには利之がいなくてはならないということで、実際にはずされることはなかった。利之は恐縮して、以後重々気をつけることを約束した。
帰宅すると、新妻が心づくしの手料理を用意して待っていた。会社での出来事はとても言えなかった。言う必要もない。二人とも酒が好きなので、いつものように焼酎にグレープフルーツを絞って割ったものを飲んだ。ほんのりと目の周りをピンク色に染めた妻の笑顔を見ていると、利之は気持ちの高まりを覚えた。
口がうまいんだから |
「君と結婚して本当によかったよ」
「あら。もうお酒が回ったの」
「いや、君に酔っただけだよ」
「ウフフ。まったく口がうまいんだから」
口は災いの元、という部長の言葉を思い出して利之はドキッとした。つい調子に乗ってしまうタイプなのかもしれない。妻にはいいけれど、他人には社交辞令のつもりでも余計なことは言わないようにしよう。頭の中でそう思いつつ、妻を抱きしめる腕に力を込めていた。
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